「仮面高血圧」放置すると脳卒中や心筋梗塞リスクが2倍以上

朝と夜の家庭血圧測定が重要
朝と夜の家庭血圧測定が重要

 健康診断や病院で測った血圧が正常範囲でも、注意しなくてはならない場合がある。それが「仮面高血圧」だ。帝京大学医学部衛生学公衆衛生学准教授の浅山敬医師に話を聞いた。

「血圧には、診察室血圧、家庭血圧、自由行動下血圧という3つの測定方法があります」(浅山医師=以下同)

 診察室血圧は、診察室という特別な環境下で行う血圧測定のため、普段の血圧の状態を反映しづらい。医師らの白衣姿に緊張して血圧が上がる「白衣高血圧」となるケースもある。

 一方、家庭で測る家庭血圧は「測るのは朝、朝食前」などと測定条件を揃えやすく、リラックスした環境で測定できるので偏りが出にくい。自動で血圧を測定する装置を24時間つけ、30分または1時間おきに血圧を測定する自由行動下血圧は、24時間の血圧の変動を知ることができ、信頼性が高いが、夜眠りづらくなるなど負担が生じる。

「診察室血圧の高血圧基準と、家庭血圧や自由行動下血圧といった診察室外血圧では基準値が異なります。診察室血圧は基準値範囲内なのに、家庭血圧や自由行動下血圧で高い数値が出る場合を『仮面高血圧』といいます」

 仮面高血圧には、早朝高血圧、昼間高血圧、夜間高血圧がある。通常、血圧は起床後、日中に向けて上昇していき、夕方から夜に向けて下降していく。就寝中は血圧が一日の中で最も低い。

 つまり、本来血圧が低いはずの夜間や早朝に血圧が高いということは何らかの異常が生じている可能性があり、また、日中基準値を超えて血圧が高いということは職場や家庭などの精神的ストレス、身体的ストレスが過剰であると考えられる。

 夜間高血圧には、就寝中に呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群、循環器血液量の増加、自律神経障害などが関係している。

 早朝高血圧では飲酒との関係も大きい。飲酒直後は血管が拡大し血圧が下がるが、それが寝ている間に上がっていき、起床直後の血圧を上げる。

「短時間作用型の薬で、朝の内服による薬効が翌朝までもたず、夜間から早朝の血圧管理が不十分になり、夜間高血圧、早朝高血圧を招いている可能性もあります」

 気が付きにくい仮面高血圧だが、放置による害は大きい。正常血圧の脳卒中や心筋梗塞の危険性を1とした場合、診察室血圧が正常でも仮面高血圧の人は2倍以上になるとの研究結果がある。

 また、「夜間血圧が20%超過度に下がる(A)」「夜間血圧が10~20%適度に下がる(B)」「夜間血圧が0~10%多少下がる(C)」「夜間血圧が上昇する(D)」の4タイプを比較した研究では、CとDの脳心血管死亡のリスクが高かった。Bを1とした場合、Aは0・96倍だったが、Cは2・56倍、Dは3・69倍、脳心血管死亡のリスクが高かった。

「冬の朝、起きてこないので様子を見に行くと、脳卒中を起こしていたという話はよくあります。夜間高血圧や早朝高血圧は、脳卒中を起こしやすい時間帯と重なっているため、特に管理に気を付けてほしい」

■朝と夜の家庭内血圧測定が重要

 早朝・夜間高血圧が疑わしい人として、「夜中にいびきをかく」「飲酒習慣がある」などがある。

 いびきは夜間高血圧の原因になる睡眠時無呼吸症候群と関連が深く、飲酒習慣は前述の通り、就寝中の血圧を下げ起床時の血圧を上げる。しかし浅山医師は「就寝中の血圧は、実際に測定しないとわかりません。ただし、朝、夜の家庭血圧を測定すると、精度良く夜間高血圧や早朝高血圧を推定することができます」と指摘する。

 まずは、家庭用血圧計で朝・夜の血圧を測定する。一度に測定するのは1~2回にし、すべての数値を記録する。朝または夜の数値が高ければ、循環器内科を受診し、必要に応じて自由行動下血圧の測定も検討する。

 高血圧の薬は優れたものが多数出ているが、高血圧の半数が未治療で、治療中の人でも半数が管理不良という。脳卒中、心筋梗塞を回避するせっかくのチャンスを逃してはいけない。

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