わざわざ「コロナ禍」というからには、それなりの人数が亡くなっているに違いない。しかしこの原稿を書いている9月11日時点で、新型コロナの死者は1412人で、「禍」というほどではない。コロナから別の病気を発症して、亡くなった人が大勢いるかもしれないが、実態は分からない。そこで厚生労働省の「人口動態調査」をもとに、死者がどれだけ増えたかを調べてみた。
まずベースとなる昨年の死亡数は、全国で約137万6000人だった。高齢者の増加に伴い、ここ数年、死亡数は毎年約2万1600人のペースで増え続けている。コロナ禍がなければ、2020年の予想死亡数は、約139万7600人に達するはずであった。
実際どうなっているのだろうか。
人口動態調査(月報・概数)の最新版は、今年4月の数字である。それと昨年同期の死亡数を比較してみると、次のようになった。
2020年1~4月 48万2155人
2019年1~4月 49万2599人
差は1万444人。
なんと死亡数が1万以上も減少しているではないか。年換算にすると、約3万1000人になる。
本来は2万1600人増えるはずだったのだから、今年の年末までに、差し引きで5万2600人も死者が減るという計算になってしまう。
我々は「コロナ禍の最中に死者が大幅に減る」という奇妙な現象に直面しているのだ。
人口動態調査には死因統計も出ているので、そちらをチェックしてみよう。死亡数がもっとも減ったのは、呼吸器系の疾患によるものだ。1~4月の期間に、約6700人も減った。主な内訳は次のようになっている。
●新型コロナ プラス516人
●インフルエンザ マイナス2224人
●肺炎 マイナス3865人
●慢性閉塞性肺疾患 マイナス624人
4月末時点で新型コロナによる死者は516人だったが、それをはるかに上回って、インフルエンザと肺炎の死者が減った。新型コロナの感染予防対策が、インフルエンザ予防に効果があったのだろう。実際、知り合いの医師たちは、口を揃えて「2月以降インフルエンザが激減した」「9月に入ってもインフルエンザがまったく増えていない」と言っている。またインフルエンザから肺炎を発症して亡くなる人が多いのだが、インフルエンザが減ったため、肺炎の死亡も大きく減ったのであろう。
ここまでは、それほど不思議ではなく、むしろ納得できる話ではある。だが、まだ続きがある。
新型コロナでわかった不都合な真実
コロナ「禍」と呼べるほどの災禍なのか?死者は大幅減少
永田宏
長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科教授
筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。