Dr.中川 がんサバイバーの知恵

堀ちえみさんは脳ドックで転移チェック MRIなら微小病変も見つかる

堀ちえみさん
堀ちえみさん(C)日刊ゲンダイ

 がん患者の方が一番恐れるのは、転移です。がんと診断されたときよりも、強いショックを受けるといいます。なるべく早いうちにがんを見つけて治療するのは、厄介な転移を防ぐという意味が大きいのです。

 タレントの堀ちえみさん(53)は舌がんと食道がんを克服。先月のテレビ番組で歌声を披露し、話題になりました。前向きな堀さんは、検診にも前向きなようです。

 先月29日のブログによると、夫婦で脳ドックを受けたことが記されています。堀さんが脳ドックを受けるのは2年半ぶりで、昨年の2月の舌がん告白からは1年半。脳のMRI検査によって、転移を調べるのが目的だそうです。

 舌がんは首のリンパ節や顎の下に転移しやすく、食道がんも首のリンパ節に転移しやすい。MRI検査で頭頚部をチェックするのは理にかなっています。ブログには、「脳を診ていただく」ともあるので、脳転移のチェックも目的のひとつなのでしょう。

 脳転移のチェックに役立つのは、MRIです。CTでは見つからないような小さな病変も発見できます。診断精度の向上に加え、治療法の進歩も重なり、脳転移があっても長期の生存が可能になりましたから、堀さんの行動はとても意味があることです。

 原発性の脳腫瘍は、周りの正常組織に染み込むように広がりますが、ほかのがん(多くは肺がんや乳がん)からの転移による脳腫瘍は正常組織との間にハッキリとした境界ができるのが一般的。境界が明瞭なことで、原発性より転移性の方が治療しやすいのです。

 そこに、放射線と分子標的薬の進歩が加わります。定位放射線治療とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を組み合わせることで、正常組織にほとんどダメージを与えることなく脳転移を叩くことができるのです。

 定位放射線治療とは、いわゆるピンポイント照射のこと。これができる前は脳全体を照射していて、正常組織へのダメージが免れず、照射後3カ月ほどで表れる認知機能の低下が問題で、延命効果はせいぜい半年ほど。それが今は、脳の機能を守りながら5年以上、生存する方が珍しくないのです。

 先ほど治療の組み合わせと書きました。実は2つの治療は順番が大切です。最初に定位放射線治療を行ってから、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬を使うのがベスト。逆だと延命効果が下がることが、海外の研究で示されているのです。放射線を後にする治療プランを提案されることがあるかもしれないので、この順番はぜひ頭に入れておいてください。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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