専門医が教える パンツの中の秘密

タマの痛みの正体は…細菌が逆行して精子の貯蔵庫に感染

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 キンタマが腫れて痛みが出る病気のひとつが「精巣上体炎」で、「精巣上体(副睾丸=ふくこうがん)」に炎症が起きている状態です。精巣上体は左右の精巣(睾丸)の背中側にある器官で、精巣でつくられた精子が10~20日ほど蓄えられながら成熟する場所です。最大10億ほどの精子が貯蔵できるとされています。

 精巣上体炎は子供から大人まで幅広い層に起こりますが、発症の原因は尿道から侵入した細菌が精管(精子の通り道)を逆行して精巣上体で増殖すること。ですから尿道炎や前立腺炎などの尿路感染症が先に起こり、原因菌は大腸菌が最も多いとされています。

 通常、尿には炎症を起こすほどの細菌はいません。しかし、「前立腺肥大症」「尿道狭窄(きょうさく)」「膀胱(ぼうこう)結石」などの疾患があると尿の流れが悪くなり、尿が汚れて細菌が増殖するのです。子供では尿道や膀胱の「奇形」や「包茎」があると細菌が増殖しやすく、それが原因になることがあります。

 また、性活動が活発な年代では「淋(りん)菌」や「クラミジア」といった性感染症(尿道炎)を起こす細菌が原因になることも多いです。しかし、95%の人に症状が出る淋菌と違い、クラミジアの約半数は症状が出ません。気づかず放置していて精巣上体炎を起こしてから感染が判明するケースも少なくありません。

 精巣上体炎の症状は基本的に片側の陰嚢(いんのう)に起こります。最初は陰嚢の中の精巣上体の痛みで始まり、次第に陰嚢全体に痛みが広がっていきます。陰嚢が赤く腫れて熱を持ち、炎症が強いときは38度以上の全身の高熱も起こります。放置すると陰嚢に膿(うみ)がたまり、さらに悪化すると皮膚が破れて膿が出てくることもあります。男性不妊の原因になりますので早期の受診が肝心です。

 他にも急に陰嚢に痛みが出る病気はあります。大人のおたふく風邪が原因の「ムンプス精巣炎」は、発症(頬や顎の下が腫れる)から4~7日後に陰嚢に痛みが出るのが特徴です。

 精巣上体炎よりも陰嚢に急激に強い痛みが出るのが「精索捻転(睾丸回転症)」です。精巣に血液を送る血管や精管が入っている「精索」というヒモ状の部分が何かの拍子にねじれてしまう病気で、放置していると精巣が壊死(えし)します。

 精巣上体炎との鑑別のポイントは「プレーン徴候」です。腫れている方の陰嚢を手のひらで持ち上げてみて、痛みが増大するのが精索捻転です。精巣上体炎では逆に痛みが軽減します。

 いずれもキンタマの痛みは放置しないことです。

尾上泰彦

尾上泰彦

性感染症専門医療機関「プライベートケアクリニック東京」院長。日大医学部卒。医学博士。日本性感染症学会(功労会員)、(財)性の健康医学財団(代議員)、厚生労働省エイズ対策研究事業「性感染症患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究」共同研究者、川崎STI研究会代表世話人などを務め、日本の性感染症予防・治療を牽引している。著書も多く、近著に「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)がある。

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