病気を近づけない体のメンテナンス

顎<下>セルフケアで改善 顎関節症を治す3つのリハビリ法

写真はイメージ
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「口を大きく開けられない」「顎の周りが痛い」「口を開けると顎が鳴る」といった症状が表れる「顎関節症」。さまざまな要因(寄与因子)が積み重なり、顎関節や顎の周りの筋肉が耐えられる負担を超えたときに発症する。

 寄与因子には「精神的なストレスや不安」「関節や筋肉の弱さ」「睡眠中の歯ぎしり」などがあるが、最も大きく関わっているのが「TCH」と呼ばれる上下の歯を接触させ続ける習慣(クセ)だ。

 普通は上下の歯が接触する時間は「食べる」「話す」といったときの瞬間的なもので、1日のうち合計しても20分程度とされる。それがパソコン作業やスマホ操作などに集中していると、無意識に上下の歯が接触してしまいやすくなる。繰り返していると、脳がこの状態が正常だと認識してしまい、常習化するのだ。

 上下の歯を軽く接触させる小さな力でも、長時間にわたって力がかかり続けると、顎の関節や筋肉の血流を悪化させてしまう。顎関節症の人の約8割はTCHを抱えているとされる。

「佐藤歯科医院今戸クリニック」(東京都台東区)で顎関節症外来を担当する木野孔司歯科医師(木野顎関節研究所所長)が言う。

「顎関節症の大半は、発症しても時間の経過とともに症状が和らいでいきますが、寄与因子を解消しないと症状が長引いたり、仕事が忙しいときなどに再発を繰り返します。しかし、顎関節症の多くはセルフケアで改善します。それは『TCHのコントロール』を基本とした寄与因子の管理と、『リハビリトレーニング』の2つです」

 TCHのコントロールは、クセになっている上下の歯を接触させる行動を変えていく。それには付箋などを張り紙として使う。

「歯を離す」などと文字やイラストを書いて、職場や自宅などの目につきやすい場所にたくさん張る。そして、気づいたら力を抜いて歯と歯の離れた楽な状態をつくる行動を繰り返すのだ。

■ちょっとつらい程度が効果を高める

 リハビリトレーニングは、顎の関節や筋肉を鍛え、耐久力を上げるための訓練。顎の痛みが強い急性期のときは避け、症状が少し和らいできたら始めるのがいい。食事で顎を動かした後や入浴後など、血行がある程度良くなっている状態のときに行う。

「これまで歯科医は虫歯などの痛みを取ることと闘ってきました。ですから口を開くと痛いのなら『安静にしてください』『軟らかい食べ物を食べるように』と指導していたので、いつまでたっても顎関節症が治らない人が増えたのです。リハビリトレーニングは、整形外科の五十肩の運動療法と同じで、痛みをこらえるトレーニングです。『ちょっとつらい』と感じる程度までやることが効果を高める秘訣です」

 その人の症状に合わせて、いくつかやり方があるので紹介してもらう。

【口が開きにくいときに行う――関節可動化訓練・筋伸展訓練】

「準備運動」として、痛みが出ない範囲で口を開けたり、閉じたりを10回繰り返す(上下の歯は接触させない)。

 初めに、下顎の前歯に利き手の人さし指から薬指までの3本の指をかけ、ゆっくり口を開くように下顎を押し下げる。痛みを少し感じるまで開いた状態で10秒間維持する。

 次に、利き手で下顎を押し下げると同時に、反対側の手の親指を上顎の前歯に当てて開口させ、10秒間の維持から始め、5秒ずつ持続時間を延ばしていく。この行程を3回繰り返して1セットとし、毎食後と入浴後に1セットずつ、1日4セットを行う。

【口は開けられるが、軽い痛みがあるときに行う――開口維持訓練】

 できるだけ我慢して、大きく口を開けたまま10秒間維持する。次に力を抜いて10秒間休む。これを数回繰り返す。

 痛みが気にならなくなるまで、毎食後と入浴後に行う。口を大きく開閉させることによる血流改善によって、痛みが軽くなる効果が期待できる。【痛みはないが、顎の疲れを感じるときに行う――筋負荷訓練】

 最初に、口を開けたり閉じたりする「準備運動」を行う。次に、口を小さく開き、利き手の人さし指から薬指までの3本の指をかけ、下顎を押し下げる。同時に、口を閉じるように力を入れ、口が開かないようにする。この状態で10秒間維持する。そして少し休み、3~4回繰り返す。慣れてきたら持続時間を30秒程度まで延ばす。これを毎食後と入浴後の1日4セット行う。

 顎の関節も筋肉も、使わなければ可動域が狭くなる。ガムを噛むことも顎の訓練になるという。

(木野歯科医師への問い合わせは、木野顎関節研究所のHPから)

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