だんだん悪化して…その息切れやむくみは心不全かもしれない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 8月28日、タレントで俳優の岸部四郎さんが急性心不全で亡くなった。心不全は近年増加傾向にあるが、どんな病気か正しく理解している人は多くない。

「心不全とは、心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって生命を縮める病気です」と言うのは、九州大学大学院医学研究院循環器内科学の筒井裕之教授だ。

 心不全は、高血圧、糖尿病、動脈硬化といった生活習慣病がリスク要因になる(ステージA)。これらによって心筋梗塞や狭心症など心臓病を起こすと、心機能が傷害を受けたり、長期的に負荷を受け(ステージB)、急性心不全を発症する。入院し治療を受ければ回復するが、心機能は完全には良くならず慢性心不全に至る(ステージC)。慢性心不全に対する薬物治療が行われるが、急性増悪で入退院を繰り返し、薬も効きづらくなる。ペースメーカーや植え込み型除細動器といった非薬物治療でも対処できなくなる(ステージD)。

■予防が死亡回避につながる

 つまり心不全は、ステージA→B→C→Dと「だんだん悪くなり」、最終的に「生命を縮める(命を落とす)」。

「心不全は次のステージに移行するのを予防するのが重要です。予防が死亡回避につながります」(筒井教授=以下同)

 超高齢化社会である日本において、心臓病で亡くなる人の40%が心不全で、16%の心筋梗塞を上回っている(2018年)。

 循環器疾患の専門医の間では「だれでもなる病気=common disease」という認識だ。だれもが正しく理解し、正しく対策を講じる必要がある。

 大きな分かれ目になるのは、心不全を発症する前か後かだ。心不全発症前のステージA、Bでは、心不全の症状はない。ここでは生活習慣病のコントロールに力を入れる。米国の大規模臨床試験では、収縮期血圧(上)を140未満まで下げた群と、120未満まで下げた群を比較。120未満まで下げた群は心不全のリスクが低下し、生命予後を改善した。高血圧の人は120未満を目標にする。

 また、SGLT2阻害薬という糖尿病治療薬が心不全リスクが高い患者の予後を改善し、心不全をすでに発症した患者の予後も改善したとの大規模な研究結果が昨年、今年と出ている。

「着目すべきは、2型糖尿病ではない患者が半数以上研究対象に含まれている点です。今後は2型糖尿病がない患者にも、心不全の治療薬としてSGLT2阻害薬が使われるでしょう。ただし現段階では、日本では糖尿病の治療薬としてのみの承認です。糖尿病患者で心不全リスクが高い人は、状況を見て、SGLT2阻害薬に切り替えるという方法もあります」

 1日6グラム以下の塩分制限、肥満解消も外せない。心不全はBNPまたはNT―proBNPという心筋ストレスマーカーでチェックできるので、特に一度でも心筋梗塞、狭心症などの心臓病を起こしたことがある人は、受けた方がいい。血液検査で簡単に分かる。

 すでにステージC以降、つまり慢性心不全の域に入っていたら……。8月に従来薬とは作用機序の違う新薬「エンレスト(一般名サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物)」が発売されたが、それ以外にもエビデンスのある治療薬がこの2年間でもいくつか登場している。早い段階で手を打てば生命予後を延ばせる可能性はある。

 そのためには、今自分の心不全がどの段階かを知る。心不全の症状である息切れやむくみを年のせいと考えている人も少なくない。

「夜、横になると咳が出る」「手足が冷たい」「疲れやすい」「頻繁にトイレに行く」といった心不全とは気づきにくい症状もある。

 心電図や胸部X線検査、前出の心筋ストレスマーカー、心エコー、MRIやCTといった検査を受けるべきだ。人生100年時代を満喫するために。

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