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トランプの集団免疫ほのめかし発言で迷走する新型コロナ対策

スコット・アトラス氏(左)の会見を聞くトランプ大統領
スコット・アトラス氏(左)の会見を聞くトランプ大統領(C)ロイター

 先週の時点でコロナ死者が20万人を超えたアメリカでは、対策やワクチン実用化をめぐってトランプ大統領とCDC(米疾病対策センター)やFDA(米食品医薬品局)など政府機関との対立が深刻化。さらに、トランプ氏が「集団免疫」をほのめかす発言をしたことで大きな波紋が広がっています。

 トランプ氏はこれまでも、「コロナウイルスは自然になくなる」などと発言し、自らマスクの着用を避け、支持者集会でもソーシャルディスタンス、マスクの義務化は一切行っていません。加えて9月半ばから「集団免疫」という言葉を使い始め、驚きが広がっているのです。

 集団免疫は、国や地域で免疫を持っている人の割合が上がれば、感染の広がりは止まるという考え方。6~7割がその目安とされていますが、アメリカがワクチンなしで集団免疫を達成するまでには約200万人が死亡する計算になるうえ、「一度できた抗体がどれだけの期間にわたって有効かは分からない」という研究結果もあり、専門家は否定的です。

 それをトランプ氏が口にし始めた理由は、ホワイトハウスの新たな顧問としてコロナ・タスクフォース入りしたスコット・アトラス氏の影響とみられています。アトラス氏は、トランプお抱えと揶揄(やゆ)される保守ケーブルテレビのフォックス・ニュースに度々出演し、集団免疫を説いてきましたが、専門は免疫学ではなく放射線学のため亜流とされていました。トランプ氏に起用されたことで、俄然、発言力を増しているといわれています。

 そして、これがすでに実際のコロナ対策にも影響し始めているようです。

 たとえば8月下旬、CDCは検査ガイドラインを「濃厚接触者でも検査の必要なし」と変更し、衝撃が走りました(世論が沸騰したために撤回)。

 また政府は9月に入り非公開の通知で、感染カーブが上がり始めた州へ警告を行いました。一方で、「マスク義務付けの必要はなくなりました」と、どう考えても矛盾する通達をしていたことも分かり、本当に集団免疫を考えているのではないか……という臆測が消えません。

 コロナ対策をめぐるアメリカの混乱は当分収まりそうになく、その間にも毎日約4万人が感染し、1000人近い人が亡くなっています。

シェリー めぐみ

シェリー めぐみ

NYハーレムから、激動のアメリカをレポートするジャーナリスト。 ダイバーシティと人種問題、次世代を切りひらくZ世代、変貌するアメリカ政治が得意分野。 早稲稲田大学政経学部卒業後1991年NYに移住、FMラジオディレクターとしてニュース/エンタメ番組を手がけるかたわら、ロッキンオンなどの音楽誌に寄稿。メアリー・J・ブライジ、マライア・キャリー、ハービー・ハンコックなど大物ミュージシャンをはじめ、インタビューした相手は2000人を超える。現在フリージャーナリストとして、ラジオ、新聞、ウェブ媒体にて、政治、社会、エンタメなどジャンルを自由自在に横断し、一歩踏みこんだ情報を届けている。 2019年、ミレニアルとZ世代が本音で未来を語る座談会プロジェクト「NYフューチャーラボ」を立ち上げ、最先端を走り続けている。 ホームページURL: https://megumedia.com

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