専門医が教える パンツの中の秘密

女性が知らない男の生理…タマはどうして縮み上がるのか

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 男性が「恐怖で震え上がる」ことを、「キンタマが縮み上がる」という慣用句で表現します。この形容は必ずしも間違いとはいえません。それは緊張すると陰嚢(いんのう)の中にある精巣(睾丸)が、お腹の方に引き寄せられる(縮み上がる)ことがよくあるからです。

 精巣は「精巣挙筋」という筋肉に包まれていて、お腹の方からぶら下がった状態になっています。そして緊張したり、寒かったりすると精巣挙筋が収縮してお腹の方に引き上げられます。逆にリラックスしているときや暑いときには精巣挙筋は弛緩して、陰嚢の中に収まる状態になります。

 このように、そのときの状況によって精巣が上がったり下がったりすることを「移動性精巣」と言い、異常ではありません。寒暖によって縮み上がり、垂れ下がったりするのは、精巣が精子をつくる適温(34~35度)を保つためです。緊張(戦闘モード)で縮み上がるのは、外敵から精巣を守るために起こります。

 セックスの最中にも精巣が縮み上がるときがあります。それは性感と興奮が高まり、射精が間近に迫ったときです。「精巣上体(副睾丸)」という部分にためられていた精子が、射精直前に精子を一時的に蓄えておく「精管膨大部」という部分に移動するときに精巣が縮み上がります。ですから性交経験が豊富な女性の場合では、そろそろ男性が射精に至ることが分かる人がいます。

 また、あることをすると片側だけの精巣挙筋が収縮する「挙睾筋反射」という現象もあります。これは太ももの内側を上から下にピンでこすると、同側の精巣が縮み上がるのです。この皮膚反射も精巣を外傷などから保護するために起こります。

 医療現場では挙睾筋反射を検査のひとつとして行う場合があります。それは脊髄の病気や脳卒中などで、随意筋(意識的に動かすことができる筋肉)を支配する神経が障害されると、挙睾筋反射が消失するからです。

 精巣がねじれる「精索捻転症」でも約90%で挙睾筋反射がなくなるといわれています。

 ちなみにジェットコースターに乗ったり、車で急に段差のある道路を通ったりするとき、股間の辺りが「フワッ」とする独特な感覚があります。苦手な人が多い通称「チンさむ」です。これは精巣挙筋が縮んで起こる現象ではなく、体がマイナスG(重力)によって浮き上がるために起こる感覚です。もちろんジェットコースターを嫌いな人は、緊張で精巣が縮み上がることもあるでしょう。

尾上泰彦

尾上泰彦

性感染症専門医療機関「プライベートケアクリニック東京」院長。日大医学部卒。医学博士。日本性感染症学会(功労会員)、(財)性の健康医学財団(代議員)、厚生労働省エイズ対策研究事業「性感染症患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究」共同研究者、川崎STI研究会代表世話人などを務め、日本の性感染症予防・治療を牽引している。著書も多く、近著に「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)がある。

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