病気を近づけない体のメンテナンス

腎臓<上>40代から死滅が始まる毛細血管を蘇らせる睡眠法

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 世界的に患者が増えている「慢性腎臓病(CKD)」。国内の推定患者数は約1330万人(成人の8人に1人)と年々増加していて、新たな国民病ともいわれている。

 CKDになっても初期のうちは無症状のまま進行し、顔や手足のむくみ、全身のだるさや疲労感などの自覚症状が表れたときには、腎機能はすでにかなり低下している。腎臓がほとんど働かなくなる末期腎不全に至ると、最終的には透析療法が必要になる。2018年調査の透析患者数は約34万人、年間約4万人が新規に透析を導入している。

 透析患者の原因疾患は「糖尿病性腎症」が約4割と最も多い。そのためCKDの予防には、動脈硬化を進行させる高血糖や高血圧などの生活習慣病の改善が大前提であることは言うまでもない。腎臓病学を専門のひとつとするハーバード大学医学部とソルボンヌ大学医学部の客員教授である根来秀行医師が言う。

「糖尿病の3大合併症である『網膜症』『腎症』『神経障害』は、どれも高血糖によって毛細血管が劣化するのが原因。血液をろ過して体に必要な物を再吸収し、老廃物など不要な物を尿として排泄させる腎臓は、毛細血管のかたまりのような臓器です。CKDを防ぐには、毛細血管の健康をいかに守り、劣化した毛細血管をいかに回復させるかが重要になります」

 つまり、腎臓の働きが良くなるのも悪くなるのも、ひとえに毛細血管の健康状態にかかっているというわけだ。毛細血管は動脈と静脈をつなぐ血管で、全身に網の目のように張り巡らされている。健康な毛細血管の場合、内皮細胞は1000日ほどで新しい細胞に入れ替わる。ところが40代くらいから新陳代謝されずに死滅してしまう内皮細胞が増え、45歳ごろからぐんと少なくなる。60代では、毛細血管の数が20代に比べ4割も減るといわれているという。

 しかし、心配は無用。毛細血管は、何らかの障害を受けて途切れるなどしたときに、別の新しい毛細血管が作られる「血管新生」や「血管修復」が大きな特徴。同じ血管でも動脈と静脈の数は増えることはないが、毛細血管だけは何歳になっても自分で増やすことが可能という。

「毛細血管の『収縮』と『弛緩』という2つの動きは、その毛細血管が通っている組織の酸素濃度と自律神経によってコントロールされています。酸素が必要でない場合は収縮し、酸素が必要な場合は弛緩します。また、交感神経が優位なときは収縮し、副交感神経が優位なときは弛緩します。このような性質から『睡眠』『運動』『呼吸』の3つの方法を実践することで、毛細血管を回復させたり、増やしたりすることができます。どれも最新の医学研究に基づき、考え出した方法です」

■遅くとも7時に起きて0時までに就寝する

 では、どんなことがポイントになるのか、紹介してもらう。

 人の体では、夜、眠っている間に全身の細胞が修復されている。

 毛細血管が、全身の細胞の修復と毛細血管自体の修復を一緒に行っているのだ。

 それは毛細血管が細胞の修復に必要な「酸素」「栄養素」「ホルモン」といった材料を全身の隅々まで送り届ける輸送ルートになるから。

 だから副交感神経優位になる質のいい睡眠で、睡眠中に毛細血管を緩めることが非常に重要になるのだ。

 細胞修復に欠かせない重要なホルモンは、主に「成長ホルモン」と「メラトニン」の2つ。

 成長ホルモンには全身の細胞を修復して新陳代謝を促す作用があり、一日の分泌量の約70%が睡眠中に分泌される。寝入りばなの約3時間の深いノンレム睡眠中に分泌のピークを迎える。

「睡眠ホルモン」とも呼ばれるメラトニンは、朝、太陽光を浴びると分泌が止まり、その15~16時間後に再び分泌が始まり、そこから数時間でピークを迎える。現在発見されている抗酸化物質の中でも、最も強い抗酸化作用を持つホルモンだ。

「この2大アンチエイジングホルモンを、できれば同時に働かせたい。メラトニンは成長ホルモンと同じ時間帯に分泌されると、成長ホルモンの分泌を促進します。ですから理想的なのは、朝6時に起きて朝日を浴びること。すると、21時ごろにメラトニンの分泌が始まります。そして23時に寝ると、午前1時ごろにメラトニンと成長ホルモンの分泌が重なります。遅くとも朝7時に起きれば、22時ごろにメラトニンの分泌が始まり、午前0時までに寝ると午前2時ごろにゴールデンタイムとなります」

 睡眠時間は7時間が基本。睡眠時間が短いと、分泌された成長ホルモンが細胞を修復させる時間が足りないからだ。

 次回は、「運動」と「呼吸」のポイントを聞く。

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