コロナ第2波に打ち勝つ最新知識

W感染は?新型コロナとインフルエンザのゲノムから見た違い

東海大学医学部分子生命科学講師の中川草氏(C)日刊ゲンダイ
中川草(東海大学医学部分子生命科学講師)

 一時期の夏の暑さが過ぎ去って、朝晩は秋を感じられる日も多くなってきた。新型コロナウイルス(以下新コロナと略記)の感染者についても一時期よりもだいぶ減少したが、一方でこれからの季節はインフルエンザウイルス(インフルと略記)が例年猛威を振るっている。

 新コロナもインフルも両方とも呼吸器感染症ウイルスで、その初期症状は区別するのが困難な場合も多い。一点、嗅覚・味覚障害については新コロナに特徴的ではあるが、新コロナの感染者全てにこの症状が出るわけではない。

 それでは、この2つのウイルスはゲノムレベルで見たときも近縁なものなのだろうか。

 その答えはノーである。確かに新コロナもインフルも、同じウイルスで、RNAという分子を遺伝情報、すなわち自己複製に必要な全ての情報を格納するために使っている。一方で、人間を含めた生物はDNAという分子を遺伝情報の格納のために使用し、RNAはDNAにある遺伝情報を一過的に読み出して活用するために主に使う。

 RNAには4種類の異なった塩基と呼ばれる“文字”に相当するような部分があり、この4文字の塩基の並んだ“文章”が遺伝情報の本質である。新コロナとインフルでは、そのRNAへの遺伝情報の書き込みの仕方が異なる。新コロナはすべての遺伝情報を1本のRNAにすべて書き込んでいる。本で言うならば1冊の読み切りだ。一方で、インフルの遺伝情報は8冊の別々の本に書き込まれていて、8冊合わせてはじめてインフルの複製が可能になる。

■ウイルスがより増幅することはない

 新コロナとインフルではRNAの使い方も異なる。新コロナは遺伝情報がそのままRNAにコードされている(ヒトなどのRNAのように読み取られてタンパク質ができる)が、インフルでは鏡文字のように一度反転させてから読み取らなければならない。したがって、インフルと新コロナのゲノムで万が一にも組み合わさったとしても(可能性は限りなくゼロに近いが)、RNAの読み取り方の違いのために、そのような組み合わさったウイルスが増幅することは考えにくい。

 それではこのようなゲノム構造が全く異なる、あまり近縁ではない2つのウイルスは、どうして似たような初期症状を引き起こすのだろうか。

 具体的には、喉の痛みや鼻汁、くしゃみ、咳、そして高熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、全身倦怠感などの症状である。

 実はこれらの症状は、インフルや新コロナが感染することで直接引き起こすものではなく、人間の免疫系がウイルスを排除しようとするときに起こる防衛反応によるものだからである。

新型コロナウィルスの電子顕微鏡写真(米国立アレルギー感染症研究所提供)
症状が同じなのは防衛反応のせい

 その他にもインフルと新コロナには共通点がある。先述の通り、インフルも新コロナもRNAを遺伝情報として活用しているので、自己複製のために自分自身のRNAを鋳型としてRNAを複製する。これはRNAウイルスに特有な現象で、この反応のために必要な特別な酵素(ポリメラーゼ)をウイルスは持っていて活用している。

 富士フイルム富山化学株式会社が開発したアビガンはこの酵素を阻害してウイルスの増殖を抑える。もともとインフル用に開発していたものの、新コロナのポリメラーゼも類似な構造をしているため、有効性は証明されていないものの、新コロナにもアビガンが効くと考えられている。

 それ以外にも、細胞に感染する際には宿主由来の同一の酵素(プロテアーゼ)を使用していると考えられている。この酵素の機能を阻害する化合物も新コロナに対する治療薬の候補のひとつとなっている。

 これから秋から冬を迎え、インフルが本格的に流行してくる。日本感染症学会の提言によると、新コロナに加えてインフルにも感染した人は、喉の痛みや鼻詰まりなど症状が悪化する傾向にあるようだ。ただ、重症度に関しては変わらないという報告がある一方で、悪化しているとの報告もあり、両方に感染したときのリスクについてはまだ明らかになっていない部分も多いので、注意は必要であろう。ただ、新コロナの感染対策によってインフル感染も防ぐことができる。

 実際に南半球のオーストラリアでは季節が逆なので今まで冬だったのだが、今年のインフル感染者数は記録的な少なさだったそうだ。

 従って、これから冬を迎える日本でも、感染リスクを下げるような行動を引き続き心がける必要があると考える。

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