新型コロナでわかった不都合な真実

厚労省と警察で異なる 「交通事故」の死者数は3種類ある

歩行者が巻き込まれた交通事故の現場
歩行者が巻き込まれた交通事故の現場(C)日刊ゲンダイ

 先日、2019年上半期の交通事故死者数を「1930人」と書いたところ、「1418人の間違いではないか」というご指摘をいただいた。ちょうどいい機会なので、この違いについて解説しておこう。

 交通事故の死者数は、実は3種類ある。

 1つは厚生労働省の人口動態調査に載っている数字で、これは医師が各自治体に届ける「死亡診断書」に記載された死因に基づいている。交通事故に関しては、具体的に体のどの部位の損傷によって亡くなったかまで細かく記載される。医学的な数字というわけだ。1930人は、こちらの数字である。

 他の2つは警察庁によるものだ。これには「24時間死者数」と「30日以内死者数」がある。前者は、事故発生から24時間以内に亡くなったひと、後者は30日以内に亡くなったひとの数である。

 日本の警察は、長年にわたって、24時間死者を「交通事故死」として公表してきたし、マスコミもそのまま報道してきた。事故後24時間1分後に亡くなったとしても、警察やマスコミからは、交通事故死としてカウントしてもらえないのである。

 一方、欧米では30日以内死者数が一般的で、24時間死者数は重視されていない。そのため日本の警察も、数年前から30日以内死者数を公表するようになった。とはいえ、いままでの慣習から抜けられず、単に交通事故死と言えば、いまでも24時間死者のことを指している。くだんの1418人も、24時間死者数というわけだ。

 当然ながら、30日以内死者数のほうが大きいのだが、残念ながら月ごとの数字が公表されていない。そのため2019年上半期の数字は分からない。おそらく1930人か、それに近い数字になるはずである。

 ところがどうも、そうではないらしい。年間の交通事故死者数が、人口動態と警察庁とで、大きく違っているのである。たとえば2019年全体の数字でみると、次のようになっている。

・人口動態調査 4279人
・警視庁(24時間) 3215人
・警察庁(30日以内)  3920人

 24時間死者数との差は1000人以上だし、30日以内と比べても359人も違っている。つまり、事故から30日以上経ってから亡くなるひとも、かなり大勢いるということだ。我々が普段、目にするのは警察庁の24時間死者数なのだが、本当はそれよりずっと多く亡くなっているのである。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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