がんと向き合い生きていく

ケンカして「退院」を告げられた膵臓がんの患者の胸の内

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 以前、ある病棟を回診した時にこんな出来事がありました。

 私はカルテを確認してから男性の4人部屋に入り、一人一人に「どうぞ頑張ってください」と声をかけました。3人の患者さんは、それぞれニッコリされて「はい」と答えてくれたのですが、窓側のベッドにいる4人目の患者Aさん(当時62歳)は、こう口にされました。

「先生、時々お腹が痛むのに、担当医からは退院しろと言われました」

 私はすぐには返事ができず、「よかったら後でお話をお聞きしたいのですが、よろしいですか?」とたずねました。すると、Aさんは「はい」とうなずかれました。

 それから2時間後、面談室にAさん、私、看護師の3人が集まりました。Aさんは進行した膵臓がんで、がんを切除する手術は無理と判断され、今回は腹痛を繰り返していたための入院でした。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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