がんと向き合い生きていく

ケンカして「退院」を告げられた膵臓がんの患者の胸の内

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 私はすぐ謝って、「おとなしくしていますから、腹の調子が治まるまでこのままおいてください」とお願いしました。入院する時の案内に書いてある「療養生活について守らなければならないこと」は読みました。でも、腹が痛いままで退院して、たった1人で家にいたら死んでしまいます。私には家族も親戚もいませんから。

 どうせ、私の命はもう長くないでしょう。死が近くに迫ってもケンカとは……。でも、まだケンカする元気があるんですよ。何か私の人生そのもののようです。Cさんとはそりが合わないのです。あの人もすぐにカッとなる人でしょう?

 ◇  ◇  ◇ 

 しばらく沈黙が続いた後、私は「体の調子が悪いと気持ちも大変ですよね。イライラする気持ちわかります。早く良くなるように、どうぞ頑張ってください」と言葉をかけました。そして、看護師からは「それではAさん、もうケンカはしないでね。廊下側の方がトイレが近くて、夜、他の患者さんに迷惑になることが少ないと思うし、場合によっては廊下側に代わってもらいますからね」との注意がありました。

3 / 5 ページ

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

関連記事