交通事故は10~12月に急増 「暗いと見えづらい」に潜む病気

写真はイメージ
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 秋はいったん日が暮れだすとすぐに日が沈んで暗くなってしまう。そのため、これからの時期は交通事故がもっとも多くなるという。見え方はどのように変わるのだろうか? 日本眼科医会学術委員で、「清澤眼科医院」(東京・南砂)の清澤源弘院長に話を聞いた。

 警視庁のページを見ると、日没時刻の前後1時間にあたる「薄暮時間帯」は、例年、交通死亡事故が多く発生しており、特に10月から12月に増加することがわかっている。

「この時間帯に事故が多いのは、日が暮れて徐々に暗くなっていくことにより周囲の視界の視認性が低下し、自動車や自転車、歩行者などの発見がお互いに遅れ、距離や速度がわかりにくくなるためです」

 そもそもなぜ暗くなると見えづらくなるのか?その原因となるひとつが瞳孔の動きだ。瞳孔は周囲の明るさに応じて大きさが変化する。明るいときはまぶしさを抑えるために瞳孔は小さくなり、暗くなると光を取り込もうとして瞳孔は大きく開く。瞳孔はこうした働きで目の中に飛び込んでくる光の量を調節している。ところが夜、瞳孔が開くと光が目の中に入ってくる領域が広がるために、明るいところとは光の屈折の仕方が変わるために、見えづらくなる。

「暗くなって瞳孔が大きく広がると、カメラでいうレンズの役割をする角膜や水晶体を通ったときに生じる焦点のズレ(収差)が大きくなって見え方のシャープさを損ない、近視が進んだような状態になります。これを夜間近視と言います。実際、昼間の視力が1・0の人でも、夜は0・7程度しか視力が出ない、ということが起きるのです」

 周囲が暗くなると見えづらくなると聞いて、「夜盲症」をイメージする人もいるかもしれない。昔で言う「鳥目」のことで、明るい場所と比べて暗い場所での視力や視野が極端に低いことを言う。

「網膜は、ものを見るためのフィルムにあたります。主に明るいところで働く錐体細胞と暗いところで働く杆体細胞があります。明るい場所から暗い場所へと移動すると、働く細胞は錐体視細胞から杆体視細胞へと交代します。この現象を『暗順応』といいます。逆に、暗いところから明るいところに移動すれば『明順応』が起きます。夜盲症は主に杆体細胞が障害される病気ですので、暗くなると見えづらさを強く感じることになるのです」

 明順応よりも暗順応の方が、はるかに長い時間がかかる。

「夜盲症には先天性のものと後天性のものがあります。先天性はさらに非進行性と進行性に分かれます。前者は先天停在性夜盲、小口病、眼底白点症などが原因で保護者が気づいて3~6歳ごろに受診することが多い。先天的な進行性の夜盲症は、青年期までに自覚するが、成人以降での発症も珍しくありません。例えば子どもの頃から始まり、徐々に視野が狭窄して視力も低下していく網膜色素変性症はその代表です」

■消化器手術が原因になる場合も

 一方、後天性の夜盲症では、成人以降に急激な夜盲を自覚することが多く、日本では腹部や消化器の手術後のビタミンA並びにE欠乏による夜盲症などが知られている。

 気をつけたいのはがん患者のなかに、中枢神経系へのがん転移ではなく、種々の中枢神経症状を呈することがあることだ。

「これを悪性腫瘍随伴神経症と呼び、このなかで網膜視細胞の障害を呈するものをがん関連網膜症(CAR)といいます。CARを引き起こす原発がんは小細胞肺がんが最も多く、次いで消化器系および婦人科系のがんが多いといわれています。CARは網膜色素変性症によく似た症状、すなわち杆体視細胞障害に基づく視感度の低下、視野狭窄などの症状があります。また、原発巣のがんが発見される前に網膜症症状を呈することから、がんの発見につながる可能性もあります。私も大学にいたころ胸腺腫瘍で同じような例を経験したことがあります」

 これからの季節、ドライバーは速度に注意して夕刻はライトを早めに点灯し、安全運転に努めること。ドライバーからは見えづらいことを意識して歩行者や自転車利用者は目立つ色の衣服を着て靴や衣服、カバンなどに反射材やライトを付けて運転者から発見されやすくすることが大切だ。なにより、暗いところで「見えづらさ」を感じたら早めに眼科医に診てもらうことだ。思わぬ原因が見つかるかもしれない。

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