「死ぬまで元気」を目指す

携帯メールの着信音など些細な音が気になるようになったのは?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 記者は最近、30年来の友人のある変化が気になっている。よく一緒にあちこち出掛けるのだが、とにかく“音”に敏感に反応するようになったのだ。たとえば、喫茶店などで誰かが鳴らした携帯メールの着信音や、店のBGM。記者や周囲の人には気にならない日常の音を「びっくりした!」「音がうるさい」と顔をしかめることが多い。以前はこんなことはなかった。記者も友人も共に50代。ひょっとしてこれは老化の一種なのだろうか。

「今までは気にならなかった音が異常に大きく聞こえる、音が頭に響くように感じて不快感がある。こういった状態を聴覚過敏といいます。ただしこれはあくまで“音が気になる”という状態を指す名称で、病名ではありません」

 こう話すのは、国際医療福祉大学熱海病院検査部・〆谷直人部長だ。

「聴覚過敏は、感覚過敏のひとつです。顔面神経麻痺やてんかんなど他の病気や、不安や抑うつなどの心理的な要因などで年齢を経て現れることがありますが、老化現象ではありません。年齢や性別にかかわらず発症する可能性があります」

 聴覚過敏は、必ずしも耳や脳に異常があるわけではなく、疲れやストレスが引き金になることもある。友人は2年前に会社で部署異動があり、人間関係が複雑になったと話していたので、疲れもストレスも大いにありそうだ。ただし、〆谷部長によれば、ストレスが脳に影響する明確なメカニズムは解明されていないという。

 聴覚過敏そのものの治療法はまだ確立していないため、聴覚過敏を引き起こしている疾患がある場合、耳鼻咽喉科や神経内科で原因となる疾患を治療することになる。

 たとえば、てんかんや偏頭痛があると、脳の神経細胞の過剰興奮や脳の過敏さで、音の選択的注意(多くの情報が一度に入ってくるときに、選択的にどれかの刺激に注意を集中すること)ができづらくなる。周囲の音がすべて耳に入って来るので、些細な音を「うるさい」と感じやすくなる。

 また、顔面神経麻痺がある場合は、鼓膜の奥にある音を伝える骨の動きがなくなり、周囲の音が大きく響く。突発性難聴やメニエール病などの内耳性の難聴では、低下した聴力をカバーしようと補充現象が起こり、音が異様に大きく聞こえることもある。

「耳や脳に異常が見つからなければ、不安やストレスを抱えていないか、日常を見直してみてください。睡眠や休養を十分にとり、生活リズムを整える。日常生活では、なるべく大きな音がしそうな場所を避けるとともに、耳全体を覆うタイプの防音保護具であるイヤーマフ、ノイズキャンセリングイヤホンなどのアイテムを活用することも有効です」

 一度思い切って、友人に「聴覚過敏」について話をしてみようかと思う。なにもなければ「取り越し苦労だった」と一緒に笑えるだろう。

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