紺と黒の区別があいまいになったら… 色覚異常かもしれない

雨粒も見えなくなったら注意
雨粒も見えなくなったら注意(C)日刊ゲンダイ

 中高年が「ものが見えづらくなった」というと視力低下や老眼をイメージしがちだが必ずしもそうではない。日本眼科医会学術委員で、「清澤眼科医院」(東京・南砂町)の清澤源弘院長に聞いた。

 年を取るにつれて「雨粒がよく見えない」「靴下が紺色か黒色か区別がつかない」「化粧が濃くなった」「5円玉と50円玉を間違える」「階段の最後の段に気づかず転倒した」という人が増えてくる。

 多くの人はその原因を「視力低下」や「老眼」や「勘違い」で片づけてしまうが、実は色覚異常のせいかもしれない。

「色覚異常というと生まれつきの病気を思い浮かべますが、加齢やその後の病気が原因で色の判別がしづらくなることもあります。これを後天色覚異常と言います。そうなる理由のひとつは、錐体細胞と呼ばれる色を見分けるセンサーが劣化するからです。錐体細胞は網膜の中心にある黄斑部に密に分布しています」

 もうひとつの理由は加齢とともに光の取り込みを調節する水晶体が黄色く濁るからだ。

「水晶体は生まれたときは無色透明ですが、紫外線などの有害光線から目を守るために、長年浴び続けると白く濁ってきます。これが白内障で、年を取ると誰でも発症します。それを放っておくと黄色から茶色に色がついてきます。着色した水晶体は青い光の透過率が低下するため青が見えづらくなるのです」

 それはフランス印象派の巨匠モネの絵に見ることができる。

「モネは白内障手術を受けてから、色覚の変化が絵に如実に表れました。彼は手術前後に片目だけで描いた作品を残していますが、白内障手術後の目は色彩が鮮やかですが、手術前の目は景色に青みが失われています。濁った水晶体の中では短波長光が吸収されてしまい、赤や緑はよく見えますが、青だけは暗く、見えにくくなる。絵の色彩の変化はその影響でしょう」

■コンロの炎に近づいて衣服が燃える事故も

 色覚異常は単に色を感じられなくなるだけではない。本来、感じるべき色が感じられなくなることで、体のリズムが崩れて不眠症になる場合もある。なかには、色の見えづらさから大事故につながることもあるから注意したい。

「老人に多い『着衣着火』事故を後天色覚異常に絡めて捉える人もいます。青色のコンロの炎が小さく見えたため炎に近づき過ぎて、衣服に燃え移る事故が起きやすくなったというわけです」

 後天的な色覚異常は病気が原因で起きることもある。例えば網膜疾患だ。

「網膜には赤や緑を感じる錐体細胞に比べて青を感じる錐体細胞の数が圧倒的に少なく、全体の数%にすぎません。そのため、網膜に問題が起きると、すぐに青色が見えづらくなります。ですから加齢黄斑変性などの網膜疾患では青の色覚異常が起きやすいのです」

 緑内障では、眼圧が色を感じる錐体細胞にも障害を与える。

「青を感じる錐体細胞は赤や緑の錐体細胞よりも細胞が大きいため眼圧の影響を受けやすい。これも青色の色覚異常になりやすい原因と説明されました。しかし、最近では網膜の中心部では赤や緑の錐体細胞もダメージを受けることがわかっており、青だけでなく赤や緑もわかりづらくなるとされています」

 後天色覚障害を起こすもうひとつの原因が視神経疾患だ。目から脳に情報を伝える視神経に障害があると、色覚障害になりやすいという。

「また、大脳の後頭葉下部には色を感じる色覚中枢があります。この部分に脳梗塞等が生じると、中枢性色覚異常が起きます。その場合には他の視覚機能は全て保たれたまま、色覚だけを失い、すべてがモノクロになってしまいます」

 色覚異常は自覚もなく生活に支障がでない。そのため放置されがちだが、それは睡眠障害や大事故につながりかねないことを知っておくことだ。

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