Dr.中川 がんサバイバーの知恵

理論上はがんの9割をカバー 「光免疫療法」の期待値と壁

三木谷CEOも期待大
三木谷CEOも期待大(C)日刊ゲンダイ

 がんが治る可能性が高まるかもしれません。先月25日、厚労省から製造販売承認を受けたがん治療薬「アキャルックス」のことです。薬剤の承認審査には通常、1年以上かかりますが、画期的で一定の条件などを満たすと半年ほどに短縮されます。その指定でスピード承認になりました。

 製造販売を担う楽天メディカルの三木谷浩史CEOは会見で「大きな一歩」と胸を張っていましたから、ご存じの方もいるでしょう。

 光免疫療法と呼ばれる治療を担う薬剤で、適応は「切除不能な局所進行または局所再発の頭頚部がん」。鼻や口、喉、顎、耳などにできるがんです。脳や脊髄、目の腫瘍は除きます。

 先行する米国では、30人を対象に治験が行われていて、4人は完全にがんが消え、9人は30%以上縮小。同様の治験が行われた日本では、3人中2人が30%以上縮小しました。国内の患者数は少なく、大規模な治験が困難で、小規模データになっていますが、標準治療が効かない人が対象ですから、画期的といえるでしょう。

 その仕組みは、光免疫という治療の名称が端的に物語っています。この薬に含まれるIR700という色素は、特定の波長の光を受けると、毒性を発揮してがん細胞を殺す。がん細胞のみに結合する“運び屋”の抗体にその働きを持たせることで、がんをピンポイントで叩く。

 注射で薬剤を体内に入れ、薬剤ががん細胞に到達したところで光を照射し、がんを叩き、死滅した細胞から漏れ出た成分により、免疫細胞が増強されます。

 それによって長期にわたり、抗腫瘍効果が続くため、光免疫療法なのです。

 “運び屋”の抗体が結合できるのは、頭頚部がんのほか、肺がんや乳がん、大腸がん、食道がん、すい臓がんと幅広い。理論上は、これらのがんにも効果があるはずで、全身のがんの8~9割をカバーするといわれているのです。

 この治療に使われる光は、生体組織内での透過性が高く、組織を傷つけずに深部に到達。「光の窓」と呼ばれますが、そうはいっても透過できるのはせいぜい体表から1センチほど。その性質から、現状は鼻や口、喉、顎などの頭頚部がんが対象になるのです。

 光の照射を内視鏡で行うとしても、がん細胞が消化管から遠いと難しいかもしれません。光は無害で、従来の抗がん剤のような副作用を大幅に抑えることもできるとはいえ、届く範囲が限られるのは現状のハードルでしょう。

 ガンマ線はその点をクリアできますが、被ばくの問題が。当面、がんができた場所と適応拡大が課題といえます。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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