進化する糖尿病治療法

食事や運動に加え「睡眠」も大事 寝不足は血糖値上昇の原因に

少しだけ早く起きて、朝に散歩を
少しだけ早く起きて、朝に散歩を(C)west/iStock

 糖尿病対策というと、食事と運動が重要視されがちですが、睡眠も重要です。これは、国内外のさまざまな研究で証明されています。

 睡眠不足が続くと、空腹時血糖値が上昇し、インスリンの分泌能力が低下して糖尿病のリスクが上昇します。マウスを使った実験では、ノンレム睡眠より浅い眠りのレム睡眠が不足すると、ショ糖や脂質といった「太りやすい食べ物」の摂取量が増えたとの結果も出ています。

 以前も紹介しましたが、イギリスのロンドン大学キングス・カレッジの研究では、1時間長く寝るだけで385キロカロリーの糖分摂取が減らせるとの結果が出ました。韓国のソウル大学医学部の研究チームは、13万人を対象に調査を行い、睡眠時間が6時間未満の人はメタボリックシンドロームや生活習慣病のリスクが上昇し、睡眠時間7~8時間の人が糖尿病などのリスクが最も低いと発表しています。

 在宅勤務の時間が増えたり、時間差通勤が会社から推奨されるようになったり、働き方が大きく変わった人も多いでしょう。いっそのこと、睡眠を十分に取れる生活に変えてはいかがでしょうか?

■朝、10分でいいからいつもより早く起きる

 おすすめは、夜型生活から超朝型生活への切り替えです。まずは朝、10分でも20分でもいいから、いつもの時間より早く起きて、散歩やラジオ体操をするところから始めましょう。朝の太陽の光には、体内時計をリセットする効果があります。カーテンを開けて太陽の光を浴びるだけでも効果が得られますが、外に出て軽く体を動かせば、体も頭もより目覚めがよくなるはずです。

 朝の太陽の光は、幸せホルモンとも呼ばれる脳内物質「セロトニン」の分泌を良くしますし、リズムよく体を動かすことで活性化されます。10分や20分早く起きられるようになれば、徐々に起床時間を早くしていきましょう。

 東京都在住の40代の女性は、フリーランスのライターということもあり、遅寝遅起きの生活を長く続けてきました。午前中の取材や打ち合わせが入らない時は、朝は10時すぎに起き、コーヒーを飲みながら新聞を読んだりメールをチェックしたりする。仕事のギアが上がるのは昼すぎで、寝るのは夜2時すぎ。「夜型生活なので早起きなんて無理」とずっと思っていました。

 生活を切り替えたのは、コロナによる外出自粛期間中です。自宅で丸一日過ごす日々にうんざりし、かといって日中、人がいる時間帯に外を出歩くにはマスクが必要。マスクなしで気持ちよく空気を吸いたいと思い、朝5時台に目覚ましをセット。早起きのために日付が変わる前にベッドに入っても、最初の数日間は眠れず、起きるのもつらかった。しかし、朝のきりっとした空気の中の散歩は想像以上に気持ちよく、なんとか続けられました。2週間ほど続ければ、次第に起きるのが苦ではなくなってきて、同時に、夜10時くらいからぐっすり眠れるようになりました。

 遅くまでパソコンの画面を見なくなったので、睡眠の質も良くなった。散歩で軽く汗をかいてシャワーを浴びたら気分がシャッキリし、午前中の仕事の効率も上がった。遅寝遅起きの時よりも、スピードアップで仕事をこなせるようになり、必然的にプライベートな時間や睡眠時間を確保しやすくなったそうです。

 体内時計の観点から、午前中が最も仕事の効率がいい時間帯だといわれているので、この女性の変化も納得です。朝型生活に切り替えて約半年。今では、朝4~5時に目覚め、夜9~10時には寝る毎日です。

 夜型人間だと思っていても、生活は変えられます。生活習慣病対策のためにも、早起き生活、始めてみてはいかがでしょう?

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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