病気を近づけない体のメンテナンス

歯<上>3割が菌血症 専門家が教える朝と夜の正しい歯磨き法

正しく磨くことが大事
正しく磨くことが大事

 日本人の成人の約8割がかかるとされる「歯周病」。怖いのは歯を失う原因になるだけではない。近年の研究から「糖尿病」「心筋梗塞」「脳梗塞」「動脈硬化」「誤嚥性肺炎」「慢性腎臓病」「大腸がん」「潰瘍性大腸炎」「認知症」「早産・低体重児出産」などの病気の発症と、深く関わっていることが明らかになってきたからだ。

 歯周病は、口の中に棲みついている歯周病菌のかたまりである歯垢(プラーク)が、歯と歯肉の間の歯周ポケットにたまって炎症を起こすことで発症する。しかし、痛みが生じにくいので、自分でもかかっていることに気づきにくい。知らないうちに歯周病の影響が全身に及んでいる可能性があるのだ。

 歯周病は、どのようにして全身をむしばむのか。「人生が変わる歯の磨きかた」(河出書房新社)の著者、国立長寿医療研究センター・口腔疾患研究部の松下健二部長(歯科医師)が言う。

「歯周病の症状の一つに、歯肉からの出血があります。原因は歯周病菌のプラークですから、これを歯磨きで取り除きたいのですが、その際の出血には要注意です。歯肉からの出血は、口の中の細菌が血管の中に侵入し、全身を巡るきっかけになる。そして、さまざまな臓器に移行して、重大疾患を誘発したり、症状を悪化させたりするのです。このように本来、無菌であるはずの血液中に細菌が認められる状態を『菌血症』といいます」

 従来は、「歯磨きのときの出血は気にしなくていい」「歯磨きを毎日続けていれば、そのうち血は出なくなる」といった指導がされていた。しかし、それは間違い。歯周病予防には毎日の歯磨きが最も重要だが、出血があっても気にせず“誤った磨き方”をしていると、口から全身に病気を広げてしまうのだ。実は、日常的に歯磨きを行い、歯間ブラシやデンタルフロスを使用していても、約30%の人に菌血症が起こっていることが報告されているという。

 これは歯肉の出血によって血管への通路が開いて、歯周病菌が侵入するルート。しかし、もう一つ、体内に侵入する経路がある。それは、口から直接のどを通り、気管や消化管を介して血管に入るルートだ。

 唾液中にはたくさんの口腔細菌が含まれ、しっかり歯磨きをする人でも、唾液1ミリリットル中に1億個の細菌が含まれているとされる。歯を磨かない人では、その100倍(100億個)だ。口の中に分泌される唾液量は、1日当たり1~1・5リットル。飲み込む唾液量を1リットルとすると、人は毎日、1000億~10兆個の細菌を飲み込んでいることになる。

■口腔内菌種の半数が腸に存在

「胃の中には非常に強い酸性の胃液が存在し、さらに強力な消化酵素を含んでいます。そのため、かつては口の細菌が腸管に棲みつくことはないだろうと考えられていました。しかし、口腔細菌と腸内細菌を遺伝子レベルで比較すると、口の中の細菌種の約半数が、腸の中にも生息することが報告されています」

 唾液と一緒に飲み込んだ膨大な数の口腔細菌は、胃酸によってほとんど死滅してしまう。しかし、食片に紛れた菌が生きのびる可能性もあり、また体調が悪くて胃酸や消化酵素の分泌が悪いときなどは、生きのびて腸まで届く細菌の数が増えることも考えられる。

 腸に到達した口腔細菌が血液中に入らなくても、歯周病菌が大腸がんや潰瘍性大腸炎などの発症と深く関係していることが報告されている。高齢者の場合、歯周病菌を含む唾液を誤嚥すれば肺炎を発症する。歯がない高齢者でも歯周病菌は舌の表面で繁殖するので、舌苔を取り除く「舌磨き」をしなければ、歯周病菌の誤嚥を防ぐことはできないという。

 このようなことを踏まえた上で、松下部長が勧める“正しい歯の磨き方”は「洗口剤うがい」と「舌磨き」「デンタルフロスや歯間ブラシ」を組み合わせた歯磨き習慣だ。朝と夜のやり方はこうだ。

■朝の磨き方

①朝起きてすぐ殺菌剤入りの洗口剤を使って「うがい」をする。30秒以上ブクブクうがいをする。
②「舌磨き」をする。舌ブラシを使って、奥から手前に2~3回なでるように舌苔を取り除く。
③朝食後に再び「洗口剤うがい」をする。
④歯磨きをする。
⑤歯磨き後、三たび「洗口剤うがい」をする。

 朝起きてすぐ、そして歯磨きの前後に「洗口剤うがい」をすれば、歯磨きをして出血したとしても菌が少ないので、菌血症を予防できるわけだ。

■夜の磨き方

①夕食後に「洗口剤うがい」をする。
②歯磨きをする。
③デンタルフロスや歯間ブラシでプラークを取り除く。
④再び「洗口剤うがい」をする。

 デンタルフロスや歯間ブラシを使って大量に出血した際は、使用を中止して歯科を受診しよう。

 次回は、歯磨き用具の選び方、正しい使い方を解説してもらう。

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