前回、新型コロナウイルスが感染した細胞では、本来作られるはずのインターフェロン(自然免疫のひとつ)が作られない可能性があるという話をした。その原因のひとつが「ORF6」と呼ばれるタンパク質が作られ、インターフェロン合成を阻害するからだとも説明した。
このことが、新型コロナウイルスの体内侵入を容易にする原因のひとつになっているとみられるのだが、もうひとつ人間にとって厄介なことがある。それは、「干渉作用」が効かない可能性もあるということだ。
干渉作用とは、「1つのウイルスが感染した細胞には、インターフェロンなどの免疫細胞の働きにより2つ目のウイルスには感染しない」というもの。新型コロナもその原則が当てはまると考えられてきたが、どうやら必ずしもそうではないらしい。
実際、中国・武漢の新型コロナウイルス感染症の重症患者の約50%がインフルエンザにも感染していたことが報告されている。
新型コロナとインフルエンザの2つのウイルスに同時感染した患者は、サイトカインストームが早まるだけでなく、何度も起きる傾向にある。東邦大学名誉教授の東丸貴信医師が言う。
「まだそうだと断定されたわけではありませんが、新型コロナについて今後懸念されるのは、混合感染した場合、症状がより重くなる可能性があるということで、知っておいた方がいいでしょう。新型コロナは季節感のないウイルスで夏でも感染拡大しましたが、夏はインフルエンザにかかる人が少ないので、混合感染によるサイトカインストームを心配する必要はありませんでした。しかし、冬場はそうはいきません」
だからといって過剰に恐れて特別なことをする必要はない。これまで通りマスク着用、手洗い、3密回避など新型コロナウイルス感染症対策を徹底することが、インフルエンザ対策になるからだ。
実際、南半球では今年、記録的なインフルエンザの少なさを記録している。たとえば、オーストラリアは例年7月にインフルエンザのピークを迎えるが、今年はほとんどいない。南アフリカもチリも同様な傾向を示している。
日本でも同じような状況で、今年に入ってからのインフルエンザの感染者は激減している。今年4月10日時点での2019~20年シーズンのインフルエンザ感染者数の推計は728万5000人。前シーズン同時期よりも450万人少なかった。
この傾向は2020~21年シーズンも続いていて、厚労省が10月9日に発表した「令和2年第40週」(2020年9月28日~10月4日)のインフルエンザ定点あたりの報告数は「7」。昨年同期の「4889」より大幅に少ない。
「今年のインフルエンザワクチンは重症化リスクの高い高齢者や医療従事者から接種していて、一般の人の中には『なんとか早くインフルエンザワクチンを打てないか』と焦っている人もいると思います。しかし、いまはそれほど焦る必要はありません。ただ、できるだけインフルエンザワクチンは打っておいた方がいい」(東丸氏)
今年はインフルエンザの流行具合を見ながら、対処を考えるべきだ。