緑茶がうつ病を吹き飛ばし睡眠や記憶を改善 専門家が解説

心と体に良い作用をもたらす
心と体に良い作用をもたらす

 日本茶が恋しい季節がやってきた。とくにいまは新型コロナウイルス感染症の拡大で世の中が騒がしく、心が乱れがち。それだけに、手軽に心と体に良い作用をもたらす「お茶」の力を利用したい。その健康効果について近年、多くの医学者たちが研究論文を発表している。うつ病の治療・予防を専攻している帝京大学医学部(精神神経科学講座)の功刀浩教授もそのひとり。日々、たしなむ日本茶のどんな成分が、健康効果をもたらすのか。改めて功刀教授に聞いてみた。

 日本のお茶の歴史は鎌倉時代の初期にまでさかのぼる。

 お茶は製法や加工によって種類も豊富だ。新芽を蒸し、揉みながら乾燥させる「煎茶」は、朝夕の食卓に欠かせない一品。お茶といえば、一般的には急須で湯飲みに注ぐ、この煎茶を指す。このほか、「深蒸し茶」「玉露」などがある。

 緑茶をベースにしたこれらの茶には、種類によって含有量に差があるが、特異の成分を持つ。代表的な成分は、まず「カテキン」(渋味成分)、「カフェイン」(苦味成分)、それに「テアニン」(甘味成分)の3種である。

 そのうち、功刀教授は「テアニン」(抹茶や玉露などの高級茶に多く含まれる)をラットに用いた実験やヒトに投与した臨床研究を行った。元来、睡眠改善作用やリラックス作用が報告されていたことに着目したという。

■「記憶」や「学習」にも良い

「最初の実験は10年ほど前でしたが、抗不安様効果、抗うつ様効果、統合失調症様症状改善作用、記憶力や感覚情報処理の増強作用を示唆する結果が得られました」

 同じく「心の病気」といわれるうつ病について、功刀教授は、「うつ病患者」群と「健常者」群に分け、「緑茶」(飲まない。週に1杯飲む。毎日1杯飲む。毎日2~3杯飲むなど)を飲む頻度で比較した。

「結果は、うつ病の患者さんは、健常者と比較して緑茶を飲む頻度が少ない傾向にあることがわかりました。私たちだけでなく、宮城県や九州での調査でも同様の研究結果が得られています」

 テアニンになぜ、こうした薬効があるのか。

 脳にある神経細胞のおよそ7割がグルタミン酸作動性神経である。テアニンは、グルタミン酸に類似した構造を持つことから、脳血管血液関門を通過した同成分は、グルタミン酸受容体に弱いながらも結合する。

「つまり弱い結合であっても、種々の効果があることが示唆されます。実際、テアニンには、ドーパミン(中枢神経系に存在する伝達物質)の放出を増加させ、抑制性神経伝達物質であるGABA(アミノ酸の一種)を増やす、記憶や学習に重要な脳由来神経栄養因子(BDNF)を増やすといった薬理作用も報告されています」

 テアニンのように優れた薬効成分を持つ緑茶には、他にポリフェノールの一種である「カテキン」も含まれている。かつてタンニンとも呼ばれた渋味成分のカテキンは、体脂肪低減効果(人間総合科学大学人間科学部・時光一郎教授)や、抗がん作用(静岡県立大学・伊勢村護客員教授)など、各氏による研究論文も多い。

 覚醒作用や作業能率を向上させる「カフェイン」もよく知られている成分だが、功刀教授は、お茶の入れ方によって抽出量が違ってくるという。

「テアニンなどお茶の成分を効果的に出すのは熱湯ではなく、50~60度程度のぬるま湯の温度でゆっくり抽出するのがいいのです」

 戦国武将たちは、戦場でゆっくりと茶をすすり、心を和らげ、精神統一を図ったという。コロナ禍の今は、まさに“心の戦国時代”。少し贅沢して、テアニンをたっぷり含む玉露などをたしなみ、平静さを取り戻してみたい。

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