進化する糖尿病治療法

検診受診率が前年同時期比30%減で重大病見逃しのリスク増

定期的に健診を受けることが大事
定期的に健診を受けることが大事(C)PIXTA

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、健康診断の受診率が前年の同じ時期と比べて30%余り減少しているそうです。日本総合健診医学会と全国労働衛生団体連合会が全国180の健診センターや病院に調査を行い、分かりました。

 特に、4月、5月は、受診者が前年より約80%減少。9月になって受診者数は回復傾向にあるものの、緊急事態宣言などで中止や延期をした健康診断を、年度内にすべて終わらせられないと回答する医療機関も少なくないとのことです。

 この連載の読者の中にも、「コロナで病院に行くのは怖いから、今年は健診をやめた」「何らかの不調があっても極力病院に行かない」「歯科や眼科は先送りにしてもよさそうだから、コロナの感染が終息してからにしよう」などと考えている方もいるのではないでしょうか?

 多くの医療従事者が心配しているのは、“受診控え”によって、がんや心筋梗塞、脳卒中などの重大病の見逃し、あるいは重大病につながる疾患の見逃しが増えるのではないかということです。

 少し前の発表ですが、ニューヨーク・タイムズ紙の調査でニューヨーク周辺の病院や医療関係者が「心臓発作の患者が4~6割減った」と答えているのに対し、ニューヨーク市消防局のデータでは「心臓発作の救急搬送が前年の同時期と比べて4倍増加」。その理由のひとつとして、コロナ感染を恐れて既往症のある方が“受診控え”をしていることが挙げられています。

 相当重症になってから救急車を呼ぶため、病院にたどり着くまでに死亡するケースが激増しているというのです。

■特に年末年始は要注意

 私の専門分野においては、血糖コントロールが良くなっていた方が受診控えをしたり、HbA1cや血糖値が高めだった方が健診を受けないで過ごしてしまうことの弊害は大きい。前者であれば、血糖コントロールがまた悪くなれば、いい状態に再度持っていくのに時間がかかります。せっかく血糖コントロールを良くしていても、いったん悪くなり、その期間が長く続くと、心筋梗塞や脳卒中のリスクが上昇してしまいます。今年は、特に年末年始は要注意と考えています。

 コロナ太りが話題になるほど、ただでさえ活動量が減りがちな昨今。健診を受けないでいる間に一気に数値が悪くなり、次に健診を受けた時には糖尿病がかなり進んでいることも考えられます。

 糖尿病は、長く「治らない病気」というのが常識でした。しかし最新の考えでは、糖尿病発症初期に厳格に血糖コントロールに努め、それを維持すれば、薬を服用していてもやめられる可能性はあるとされています。実際、私の患者さんも、劇的な生活習慣の変化によって血糖コントロールが素晴らしく良くなり、薬をやめられた方が何人かいます。

 一方で、念頭に置いておくべきなのは、「一度糖尿病になったら、糖尿病発症以前と同じ体ではない」ということ。糖尿病は一朝一夕で発症しません。長年の生活の積み重ねで、あるラインを越えてしまう。努力によって引き返せたとしても、ラインを越えやすい状態は変わりません。

 生活習慣が乱れれば、一度も糖尿病を発症したことがない人よりも早く、ラインを越えてしまいます。

 これをマイナスイメージで受け取るか、プラスイメージで受け取るか……。糖尿病発症を回避する生活は、高血圧や脂質異常症を回避する生活でもあります。すなわち動脈硬化の進行を抑え、心筋梗塞、脳卒中のリスクを下げる。プラスの面が多いのです。

 そして大事なのは、定期的に健診を受け、自身の体の状態を把握しておくことです。あるいは、不調があれば、速やかに病院を受診する。健診も受診も「不要不急」ではありません。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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