病気を近づけない体のメンテナンス

歯<下>がんや心臓病を誘発 菌血症を防ぐ歯磨き用具と使い方

写真はイメージ
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 歯周病を放置すると歯を失う原因になるだけでなく、歯周病菌が血管の中にも侵入して「菌血症」という状態になる。菌がさまざまな臓器に移行して、「糖尿病」「心臓病」「脳卒中」「大腸がん」などの重大疾患を誘発したり、症状を悪化させたりするのだ。歯周病菌の侵入経路は、歯肉の出血している部位から血管に入るルートと、口から唾液と一緒にのみ込んだ菌が気管や消化管を介して血管に入るルートがある。

 歯周病菌は、歯と歯肉の間の歯周ポケットにプラーク(かたまり)となってすみついている。出血も主に歯周ポケットの中で起きている。菌血症を防ぐには、どんな歯磨きをすればいいのか。「人生が変わる歯の磨きかた」(河出書房新社)の著者、国立長寿医療研究センター・口腔疾患研究部の松下健二部長(歯科医師)が言う。

「最も大事なことは、出血が起こった部位に細菌がいない、あるいは少ない口腔環境であれば菌血症は起こりにくいことです。そのためには、1日3度の“正しい歯磨き”に加えて、殺菌剤入りの洗口剤を使った『洗口剤うがい』をおすすめします。朝起床してすぐ、そして歯磨きの前後で『洗口剤うがい』をすれば、歯磨きをして出血したとしても菌が少なくなるので、菌血症を予防することができます」

 しかし、プラークは「バイオフィルム」という膜で覆われているので、洗口剤の殺菌成分もプラーク内に浸透するのは容易ではない。やはり歯ブラシを使って物理的に取り除くことが重要になる。ただし、磨き方を誤ると歯肉の出血を招く。松下部長に、具体的な歯磨き用具の選び方や使い方を解説してもらう。

【デンタルペースト(歯磨き粉)の選び方】

 基本成分として「研磨剤(清掃剤)」「発泡剤」「保湿剤」「結合剤」を含む。さらに、さまざまな「薬効成分」が加えられている製品がある。

 薬効成分の中で、菌血症を防ぐ目的で重要な成分といえるのは「殺菌成分」と「止血成分」。しかし、代表的な止血成分として知られる「トラネキサム酸」を含むものは、最近は少なくなってきている。他には「収斂(歯肉を引き締める)成分」や「消炎成分」も止血には有効という。

「通常のデンタルペーストには研磨剤が含まれますが、歯の表面のエナメル質が削れるので毎日強い力で磨くと歯の象牙質が露出して、かえって歯が黄ばみます。また発泡剤が入っていると泡立つので、歯磨きが不十分になりやすい。通常の歯磨きには、研磨剤や発泡剤の入っていないものを使った方がいいでしょう」

【洗口剤の選び方・使い方】

 液体タイプの洗口剤には、「洗口液(マウスウオッシュ、オーラルリンス)」と「液体歯磨き(デンタルリンス)」の2種類がある。「洗口剤うがい」には、どちらを使ってもかまわない。

「歯周病や菌血症を予防する目的なら、『殺菌成分』『消炎成分』『止血成分』『収斂成分』を含む製品がおすすめです。洗口剤は、30秒以上すすぐと殺菌効果が高まることが分かっています。味や刺激がなくなったら吐き出すのではなく、時計を見ながら30秒~1分程度すすいでください」

【歯ブラシの選び方・使い方】

 歯ブラシの毛先には、「ラウンドカット(毛先が丸い)」と「テーパードカット(毛先が細い)」がある。歯周ポケットの掃除には、テーパードカットの歯ブラシを選んだ方がいい。毛の硬さは歯肉を傷つけにくい「やわらかめ」。ヘッドの大きさは2センチより小さい方が、小回りが利いて磨き残しが少なくなる。歯ブラシのネックとグリップの形状は、真っすぐな「ストレートタイプ」がいいという。

「歯ブラシは鉛筆を持つように、親指と人さし指の2本でつまむように持つと、歯ブラシを動かしやすく、過剰な力はかかりません。歯周ポケットの掃除は、毛先を歯肉の方向に45度傾けて当て、前後に振動させて1本ずつ丁寧に磨きましょう」

【デンタルフロス、歯間ブラシの選び方】

 デンタルフロスは、歯と歯の間のプラークを取り除くための「糸」。手に巻き付けて使う「ロールタイプ」と、プラスチックのホルダーに付いた「ホルダータイプ」がある。最初はホルダータイプの方が使いやすい。歯間に入りづらいようなら、ワックスがついている細いフロスを使うといい。

 歯と歯の隙間が広がっている場合には、歯間ブラシを使った方が掃除の効率がいい。最も大事なことは、自分に合った歯間ブラシを使うこと。抵抗を感じずにスムーズに挿入できるサイズのものを選ぶことだ。

 つまようじで歯の間を掃除するのはNG。歯肉を傷めて出血しやすくなる。デンタルフロスや歯間ブラシを使って、大量の出血がある場合は、必ず歯医者を受診しよう。

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