最新鋭機によるハイパーサーミアでがん治療はどう変わるか

ハイパーサーミア治療器(サーモトロン─RF8)と千葉聡肝胆膵外科主任医長
ハイパーサーミア治療器(サーモトロン─RF8)と千葉聡肝胆膵外科主任医長(提供写真)

 千葉県に、欧州の一部の国ではがんの標準治療法とされる、ハイパーサーミア療法(温熱療法)を行う医療拠点が誕生した。千葉県がんセンター(千葉県千葉市中央区)肝胆膵外科(高山亘部長兼医療局長)に新たに設けられたハイパーサーミア外来がそれ。最新鋭の高周波局所温熱療法装置を設置し、28日の新病棟開院と同時に患者の受け入れを開始する。ハイパーサーミアの登場でがん治療はどう変わるのか?

「ハイパーサーミア療法とは、がんの塊が42・5度以上の熱に弱いという性質を利用してがんを治療する方法のことです。しかし、温水などでは体表面は熱せられても体の奥底に潜むがんの塊まで熱を上げることはできません。そこで登場したのが高周波局所ハイパーサーミア治療器です」

 こう言うのは千葉県がんセンターハイパーサーミア外来を取り仕切る、千葉聡肝胆膵外科主任医長だ。

 高周波ハイパーサーミア治療器は、がん患者の体を一対の電極盤ではさみ、その電極間に高周波を流すことによってジュール熱を発生させ、患部にあるがんの塊の温度を上昇させる。具体的には患者は加熱する部分の着衣を脱ぎ、身に着けている金属物を外して治療テーブルに横たわる。ガントリードームに治療テーブルが移動し、患部に上下電極が装着され、40~60分治療を行う。

「がん組織は、42・5度以上に加温すると、タンパク質や脂質が熱変性により酵素活性が失われ、細胞膜や細胞内器官に異常をきたします。とくに細胞内でエネルギーを作るミトコンドリアは機能が低下するため、徐々にがん細胞が死んでいきます」

 放射線はその通り道の電子をはじき飛ばすことでがん細胞を壊すが、その点が違う。従来の温熱療法治療器は発振部に真空管を用い電極間の設定条件などを人が管理してきたが、今回、千葉県がんセンターに設置される「サーモトロン―RF8」は、発振器がソリッドステート化されており電極間のセッティングが自動化され、コンピューターにより操作性と治療の精度が格段に向上しているという。

 しかし、温熱によりがん細胞が死滅するのなら、一律に加熱される正常細胞もダメージを受けるのではないか。

「心配はいりません。人体の中は恒常性が保たれるようにできていて、熱が加わると正常な細胞の周囲の血管は拡張して血流が増し、熱を外に逃がす仕組みになっています。がんの周りにも血管はありますが、新生血管と呼ばれる、急ごしらえのもろい血管であるため、血管が拡張せずに熱がこもってしまい、正常細胞よりも早く熱の影響を受けてしまうのです。しかも、がんの塊の内部は血液が通わず、低酸素状態です。低酸素の細胞は高酸素の細胞に比べて熱に弱い。しかも、酸素を使わずにエネルギーを作るがん細胞は大量のグルコースを必要とするために乳酸がたまりやすく、酸性化しやすい。酸性化すればするほど熱に弱くなるのです」

 とはいえ、どんな治療法にも副作用はある。ハイパーサーミアの場合、脂肪組織が過度に加温されると皮下脂肪に硬結が生じ、痛みの原因となる場合がある。ただし、多くは1~2週間で消失し、後遺症も残らない。

■標準療法との併用を目指す

 しかし、この治療法が注目される本当の理由は、加熱によりがん細胞に直接ダメージを与えるからだけではない。抗がん剤のがん細胞への取り込みを向上させ、放射線の増感効果が得られることだ。しかも、ハイパーサーミアによる体温の上昇により免疫細胞であるリンパ球が活性化し、NK細胞、細胞傷害性T細胞、樹状細胞などが増殖して、がん細胞への攻撃力が強まると考えられている。

「ハイパーサーミア療法と併用すれば抗がん剤や放射線に上乗せ効果が認められ、また通常よりも少ない量で効果を得ることも可能で、それだけ抗がん剤や放射線の副作用を減らすことができます。また、放射線が効きにくいがん種もこの治療法を併用することで治療効果が上がることが実証されています。がんの総合治療を担う千葉県がんセンターがこの療法を導入する意味は、他施設ではともすれば最後の治療、緩和治療とみられがちなハイパーサーミア療法を標準治療の開始と同時に行うことで従来より少ない副作用で、従来以上の成績を上げる可能性を期待できることなのです」

 当面は肝胆膵がんの患者を中心に1日3人程度受け入れ、その後8人まで増やしていくという。

 千葉県がんセンター肝胆膵外科部長の高山亘医療局長もこう期待する。

「ハイパーサーミアにより、標準治療の効果を高めることが目標です。とくに全国的に治療成績が悪い膵臓がんなどに、この治療法を加えることで新たな展開が迎えられることを期待しています」

 千葉県がんセンターの今後の治療成績に注目だ。

関連記事