コロナ禍の受診控えで歯周病を悪化させる人が急増している

写真はイメージ
写真はイメージ

 新型コロナウイルスの感染拡大は続いているものの、パニック状態だった世間はだいぶ落ち着いてきた。歯科医院でも受診を控えていた患者が戻りつつあるが、以前より口腔内の環境が悪化している人が増えているという。斉藤歯科医院の北沢伊院長に詳しく聞いた。

 それまでは3カ月に1回のペースで来院し、歯石除去を含めた口腔内のクリーニングを行っていた30代の男性がいる。1月に受診して以来、院内感染を危惧してクリーニングを中断していたが、8カ月ぶりに来院。口腔内をチェックしたところ、歯茎の腫れや膿、歯の揺れが目立ち、歯周病が一気に悪化していたという。

 歯周病は、口腔内に生息している歯周病菌によって引き起こされる炎症性疾患で、進行すると歯肉が炎症を起こして腫れたり、出血しやすくなる。さらに、歯と歯肉の境目の歯周ポケットが深くなり、歯を支えている歯槽骨が溶けて歯がぐらつき、最後は抜け落ちてしまう。

 ほかにも、がん、心臓病、糖尿病、認知症といった病気にかかりやすくなることもわかっている。

「歯周病は、その病態に応じて『軽度』『中等度』『重度』の3段階に分けられていて、歯周ポケットの深さや歯の揺れ具合、レントゲン検査で骨吸収の度合いなどを見て判断されます。軽度であれば、日頃からの正しい歯のブラッシングに加え、定期的にクリーニングを行って、歯周病の原因となる歯石やプラーク(細菌の塊)を取り除き、口腔内の細菌を減らすことで悪化を防げます。しかし、中等度まで進行すると、歯を支えている顎の骨が溶けて失われてしまうため、完全に元の状態に戻すことができなくなってしまいます。それ以上、悪化させないためには、歯槽骨を再生する『歯周組織再生療法』という手術が必要です」

 歯周組織再生療法は、歯茎を切開して歯石やプラークを取り除き、エムドゲインやリグロスといった材料を歯槽骨の歯根面に塗り、歯茎を元の位置で縫い合わせる。すると、およそ半年ほどで歯槽骨が再生する。

 歯周病が中等度や重度になると、こうした大がかりな治療が必要になってくる。しかし、ほとんどの場合、ブラッシングだけで口腔内の環境をコントロールして歯周病の悪化を食い止めることは難しいという。将来、自分の歯を失わないためにも、専門家による定期的なクリーニングは欠かせない。コロナ禍で受診を控えている人は、なるべく早いうちに再開したほうがいい。

■休校の影響で子供の虫歯も増加中

 クリーニングは3カ月に1回が一般的だが、歯周病の状態によっては半年に1回で問題ない患者もいれば、逆に1カ月に1回ペースで来院してもらうケースもあるという。

「中でも『レッド・コンプレックス』と呼ばれるP・g菌、T・f菌、T・d菌の3菌種が口腔内に多く分布している人は、歯周病が急激に悪化するリスクが高いといわれています。自分の口の中にどんな種類の歯周病菌が多く分布しているのかは、唾液による検査でわかりますが、数万円の費用がかかります。歯科医師は口腔内の状態を見て判断しているので、自己判断せずに指示されたペースをきちんと守って、クリーニングに通うことが大切です」

 北沢院長が長らく延期されていた中学校の歯科検診に出向いたところ、これまでは1クラスに1人いるかどうかだった虫歯の子供が、5人程度まで増えていたという。自宅に長くいることで、おやつや清涼飲料水を口にする機会が増えたり、生活リズムが大きく変化して口腔内の環境が悪化したためだと考えられる。

 コロナの影響で歯を失わないためにも、まずは歯科医院で口腔内の状態を確認したい。

関連記事