独白 愉快な“病人”たち

トイレは1日40回 俳優・井澤こへ蔵さん潰瘍性大腸炎を語る

井澤こへ蔵さん
井澤こへ蔵さん(提供写真)
井澤こへ蔵さん(俳優・28歳)=潰瘍性大腸炎

 俳優になることを決めたのは、「復活したら後悔しないように生きよう」と思うほど死を意識したからです。そして、体調が一番優れない時に救われたのが、同じ病気を抱える高橋メアリージュンさんの活動を目にした時です。本当に勇気をもらいました。「今度は僕がそっち側に行くんだ」と徐々に思うようになりました。それまで俳優は、子供の頃に夢見た職業でしかなかったので、病気にならなかったらサラリーマンになっていたと思います。

「潰瘍性大腸炎」と診断されたのは、大学3年生の12月でした。ある日、先輩後輩8人で車に乗って遊びに出掛けた先でトイレに行ったら、突然、血便が出たのです。ビビリなもので、一気に冷や汗が出て体が震え始めました。「しんどいから車で寝てるわ」と、みんなが遊んでいる間、ビオフェルミンを飲んでずっと横になっていました。

 翌日、市民病院に行き、問診で整腸剤を処方されましたが、1週間飲んでも血便が止まりません。それで再び同じ病院を受診すると内視鏡検査になって、潰瘍性大腸炎という難病が判明したのです。

 処方されたのはアサコールという薬で、「1日9錠を一生お願いします」と言われました。「さすがに一生は嫌だな」と思いながら仕方なく飲み始めると、意外にも早く血便が落ち着いたので、その後3~4カ月かけて薬を徐々に減らしていき、勝手に終了してしまいました。

 というのも、血便の原因に明確な心当たりがあったからです。じつは大学3年生に入り、単位もほとんど取得していたので、自由な時間ができ、連日夜遊びに興じていました。あの血便は、家にも帰らず昼夜逆転の生活にどっぷりつかった末の結果で、きっと食事と睡眠と運動に配慮した規則正しい生活をすれば改善すると思いました。案の定、生活を改め、薬を飲まないまま10カ月が順調に過ぎていき、もうすっかり治ったような気になっていました。

 でも、その夏にちょっと羽目を外して友人とバーベキュー三昧で過ごしたら、あっという間に逆戻り。下痢になり、血が混じり、40度の熱が1週間も下がらない……。

 結局、ちっとも治っていなかったのです。おまけにトイレで用を足していたら突然クラッとして、視界がスーッと狭くなり、「まずい」と思って自力で救急車を呼びました。

 点滴を打ってもらえばすぐに帰れると思っていたのですが、医師に「あかん、これ入院やで」と言われました。最初の5日間は絶飲食で、熱はずっと40度が続きました。

 トイレは1日40回ぐらいですべて血便……。最後は何も出ないんだけれど、痛くてトイレに行くの繰り返しでした。でも凄いもんで点滴だけでお腹も減らないし、喉も渇かないことを学びました。

■自力で治した医師の著書を読んで受診

 そんな入院生活も2週間で終わり。おかげさまで僕は今、薬を飲んでいません。飲まなくなって丸3年になりました。きっかけは入院中に読んだ一冊の本でした。なんとしても自力で治したかった僕は、「潰瘍性大腸炎 治る 本」というワードでネット検索してみました。すると、まんま「潰瘍性大腸炎が治る本」というタイトルが出てきて、著者は自力でこの病気を治した医師でした。

 母親にその本を買ってきてもらい、読みながら「この先生に診てもらいたい!」と思いました。どこの病院だろうとプロフィルを見ると、奇跡的に僕が住んでいた和歌山の、しかも家から遠くない馴染みのある場所でした。「これは運命だ」と思いましたね。

 退院してすぐに受診したのは言うまでもありません。そこはペインクリニックで、初めの1カ月ぐらいは漢方薬をすすめられて飲みましたが、主な治療は首の付け根に打つ星状神経節ブロック注射と光線の照射でした。交感神経の興奮を抑え、末梢血管の血流が良くなり、自然治癒力がグッと上がるというのです。ほかにも、呼吸法やマイナスイオンのベッドなど、いろいろな方法を駆使して副交感神経を優位(リラックス)にしていく治療法が僕には良かったみたいです。

 何より信頼できたのは、先生がめちゃくちゃしゃべってくれること。先生も同じ病気を経験しているだけに親身になってくれたので、それだけでも治る希望が持てました。今も3~4カ月に1回は通っています。

 食事制限はありませんし、お酒も飲みます。ただ、食べ過ぎた後は必ず腸を休ませて、健康的な生活を心掛けています。習慣にしているのは「爪揉み」です。先生から教わったのですが、手指の爪の付け根には副交感神経を刺激するツボがあるそうです。ただ、薬指だけは交感神経のツボなので、僕は薬指以外を日々揉んでいます。 (聞き手=松永詠美子)

▽いざわ・こへぞう 1994年、和歌山県生まれ。大学卒業後、劇団「なにわニコルソンズ」に所属。舞台「鈴木ごっこ」「お通夜イレブン」などに出演し、最近は「ルーツ 第1回公演 コロナは『私』を殺せない。~喜怒哀楽爆発劇~」という短編オムニバスのオンライン演劇作品に出演中。同作は2021年に国際映画祭出品に向けた長編映画製作も予定されている。
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