コロナ第2波に打ち勝つ最新知識

年末の定番「ドイツ語での第九」飛沫感染リスクは大丈夫?

歌で閉塞感を吹き飛ばしたいが…
歌で閉塞感を吹き飛ばしたいが…(提供写真)

 新型コロナウイルス禍で不要不急の外出自粛に耐えてきた。その憂さ晴らしを兼ねて、思いっきり歌いたい。そんな人も多いのではないか。しかし、カラオケによるクラスター(集団感染)の発生も複数報告されていて、歌うことへの懸念がある。本当のところはどうなのか?

 全日本合唱連盟と東京都合唱連盟は8月下旬に「合唱活動における飛沫実証実験」を実施。速報を10月8日に公表した。監修は横浜市立大学付属病院の加藤英明医師だ。

 実証実験に参加したのは小学生から70代までの男女20人。いずれも東京都合唱連盟加盟団体の団員で、クリーンルームで飛沫の飛距離の計測と飛沫の数をカウントした。

 曲は年末の定番合唱曲「大地讃頌」(日本語)およびベートーベンの「第九」(ドイツ語)の一部。マスクなしとマスクありで歌い、母音唱(大地讃頌のみ)や歌詩朗読(大地讃頌のみ)、五十音発語も行った。

 その結果、マスクをつけずに大地讃頌を歌ったときは、発声する方向への飛沫到達距離は最長61センチ。一方、ドイツ語の第九は最長111センチだったという。また、大地讃頌の歌唱と朗読では飛沫の飛距離に大きな差は見られず、母音唱では勢いのある飛沫は見られなかった。

 マスクについては通常のマスク(不織布、布、ポリエステルのいずれも)は勢いのある飛沫を遮断する効果が高いが、マウスシールドや下部の開放が広いマスクはそれほどでもなく、特にドイツ語での飛沫抑制効果は課題を残したという。

 飛沫数は前方1メートルでは口元の約50分の1以下となり、特に5マイクロメートル以上の大きさの飛沫は計測されなかった。

 全日本合唱連盟は、これとは別に9月8日に「合唱活動における新型コロナウイルス感染症拡大防止のガイドライン」を発表している。そこには興味深い検証研究事例が掲載されている。

 たとえば、「東京都交響楽団」が発表した「COVID―19影響下における演奏家再開に備えた試演」の粒子計測では、歌手および楽器から発生する飛沫の計測結果では男性歌手が発する飛沫の数および頻度が最多。歌い方により飛び方は異なり、ドイツ語の朗々とした歌い方ではそれほど多くなく、イタリア語の破裂音が多い曲では多くの飛沫が見えた。大きめの粒子はほぼ真下に落ちる一方で気流に乗る小さな粒子もあり、顔付近の粒子濃度が増えていく様子が観察された。別の実験ではソプラノ、テノール共に口元で最も多くの微粒子が測定されている。

 弘邦医院の林雅之院長が言う。

「カラオケ店での感染が多いことから歌は危険と考えがちですが、問題はマイクの共用や飛沫が付着した飲食物を口にするとか、換気の悪い部屋で密になるからであって、歌そのものではないかもしれません。一部合唱団で感染者が出たのも休憩中の飲食が原因の可能性もある。検証結果から歌う人が2メートル近く離れていれば飛沫感染の恐れは少ないし、破裂音の多い曲でなく、換気がしっかりできていればエアロゾル対策にもなり、歌による感染リスクは下げられるはずです」

 全日本合唱連盟は11月に新たなガイドラインを示すという。今年の年末も第九は聞けそうだ。

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