Dr.中川 がんサバイバーの知恵

飲酒や喫煙に加えて注目 食道がんの予防は歯磨きとフロス

フロスも加えて丁寧に
フロスも加えて丁寧に(C)日刊ゲンダイ

 口の中の粘膜の状態で食道がんのリスクが分かる――。大阪国際がんセンターの研究グループがそんな成果を発表し、話題を呼んでいます。

 グループは、食道と同じ細胞でできている口の粘膜に注目。食道がんになったことがある人とない人を合わせて280人を比較したところ、粘膜の状態が悪いと、食道がんのリスクが高くなることを突き止めています。

 具体的に粘膜がどんな状態がリスクになるかというと、「粘膜が黒い状態」が3・3倍、「白い粘膜の付着」が4・3倍、「毛細血管の拡張」が2・8倍でした。かねて食道がんのリスクは飲酒と喫煙が知られていますから、飲酒歴や喫煙歴に加えて粘膜の状態をチェックすると、食道がんを早期発見できる可能性があるでしょう。

 実は口の中の状態と食道がんには、関係が深いことが分かっています。米ハーバード大の研究グループは、歯周病との関係を調査。女性の看護師5万人と男性の医療従事者10万人を20年以上追跡し、歯周病の有無、歯の欠損の有無によって、食道がんのリスクがどうなるか調べました。

 その結果、「歯周病なし、歯の欠損なし」を1とすると、「歯周病なし、歯の欠損1本以上」は39%、「歯周病あり、歯の欠損なし」と「歯周病あり、歯の欠損1本以上」はともに59%も、食道がんのリスクが高まることが明らかになったのです。年齢や追跡期間、糖尿病の有無などの因子を調整すると、歯周病歴は食道がんのリスクを43%上昇させると結論づけています。

 ハーバード大の研究では、胃がんについても調査していて、同様の結果に。歯周病があると、胃がんのリスクは52%上昇します。

 米中の研究グループは、ある歯周病菌と食道がんの関連性について調査。その結果、食道がん患者のがん細胞の61%、がん細胞に隣接する非がん細胞の12%から歯周病菌が見つかりましたが、健康な人の細胞からはまったく見つかりませんでした。

 歯周病は、口の中の微生物によって炎症が生じて、少しずつ悪化する病気です。歯を支える歯槽骨が溶け、歯が抜ける病気というイメージがあるでしょうが、歯周病に関連する微生物は心筋梗塞や脳卒中、糖尿病など全身の病気に関係することもすでに分かっていて、がんにも関わっているということです。

 これらの研究から分かるのは、食道がんの予防にオーラルケアが不可欠だということ。歯磨きはもちろん、フロスや歯間ブラシも併用してください。

 ちなみに飲酒は、ウイスキーやブランデー、テキーラなどハードリカーをストレートで飲むのがよくありません。そういう飲酒はなるべく控え、せめてチェーサーも一緒に飲むことです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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