コロナ第2波に打ち勝つ最新知識

新型コロナウイルス 細胞への侵入を許す新たな経路が浮上

これから寒くなる季節だけに…
これから寒くなる季節だけに…(C)日刊ゲンダイ

 感染拡大に歯止めがかからない新型コロナウイルス感染症。重症化するのは一部だといわれるが、心臓や腎臓などの重要臓器にも感染するなどその感染力の強さには驚かされる。その答えになると思われる、新型コロナウイルスの新たな感染経路が浮上したという。

 新型コロナウイルスが人間の細胞に感染する仕組みはある程度解明されている。新型コロナウイルスはエンベロープと呼ばれる固い殻に包まれている。そこから突き出したスパイクタンパク質(Sタンパク質)がヒトの細胞膜上のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)と呼ばれる受容体に結合し、Sタンパク質は同じくヒト細胞膜上のセリンプロテアーゼ(TMPRSS2)により切断されて、S1とS2に分かれることで膜融合が促進され細胞内への侵入が行われる。つまり、ACE2受容体とTMPRSS2がセットで存在することで初めて、人は新型コロナウイルスに感染すると考えられてきた。

 ところが、新型コロナの近親といわれるSARSウイルスのSタンパク質はセリンプロテアーゼFurin(フーリン)で切断され、S1とS2に分かれることがわかっている。このため、新型コロナウイルスもTMPRSS2がなくてもフーリンがあれば感染するのではないかと推測されていた。

 世界的な科学雑誌「サイエンス」10月号では、英国のブリストル大学の研究グループと、ミュンヘン工科大学・神経変性疾患ドイツセンターの合同研究グループの2本の研究論文が掲載された。どちらも、フーリンで切断されたS1の断面に血管増殖因子のひとつである、ニューロピリン1(NRP1)が結合することで、ウイルスのヒト細胞への侵入を媒介しているという内容だ。

 興味深いのはミュンヘン工科大学グループがNRP1により新型コロナウイルスの感染が進むとともにNRP1のモノクローナル抗体で感染を阻害することを示したと報告していることだ。本当ならNRP1を標的にした薬剤を用いれば、感染を抑えられる可能性がある。

 さらに新型コロナウイルスの感染性について、ACE2、TMPRSS2およびNRP1の単独および組み合わせの感染効果や、NRP1の組織内での分布、新型コロナウイルスの組織移行性との関係を詳細に調べた結果、ACE2がほとんどない状態でもNRP1が存在し、ウイルスレベルが高ければ感染することが証明されたという。東邦大学名誉教授の東丸貴信医師が言う。

「ACE2への結合以外にも、新型コロナウイルスが他の細胞表面分子にも結合して細胞侵入できると示唆する研究結果が増えてきています。SARSウイルスに比べ、新型コロナウイルスの感染力が強いのは、ウイルスが宿主細胞に侵入できるようにする細胞受容体の多様性によって説明できる可能性があります」

 ちなみにニューロピリンタンパク質はニューロンで発現しているため、ウイルスの神経系への侵入を許しているとも考えられる。新型コロナに感染すると臭覚が一時的に消失するのはそのせいかもしれない。

 いずれにせよ、感染の新経路発見は新たな予防策の発見につながる。ワクチン以外にも感染を抑えられる日は近づいているようだ。

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