黒目の周りに白い弧が…40代以下の「老人環」に要注意

脂質異常症は自覚症状がない
脂質異常症は自覚症状がない

 年を重ねると体にさまざまな変化が表れる。肌はシミが増えて潤いが失われ、膝や腰が痛くなる。目も例外ではない。老眼で近くが見えづらくなるだけでなく、目の角膜の周りに白い弧状の曇りが表れてくる。しかし、この白い弧が若い頃にできたとすると……。

「先生、両側の茶眼の縁が白くなってきました。白内障でしょうか?」

 田中聡子さん(仮名、43歳)が近くの眼科クリニックに駆け込んだのは8月のこと。朝、鏡を見ていて目の角膜の周りに白い弧ができているのに気がついた。「清澤眼科医院」(東京・南砂)の清澤源弘院長が言う。

「これは水晶体が紫外線や加齢などで白く濁る白内障ではなく、老人環と呼ばれる中高年に見られる角膜の変性です」

 角膜は目の前方で透明なドーム形になっている。老人環ができると、角膜の周辺部に弧状、半円形、または全周に、白色または灰色の混濁帯が表れる。

「高齢者に老人環が見られた場合は他に目の症状を示すことはほとんどなく、視力も最後まで低下しません」

 老人環はその名の通り主に老化によって起きる。60歳以上の人の約60%にこの状態があり、80歳以上ではほぼ100%がこれを持っている。

「原因は角膜の表面に近い部分に形成される脂肪沈着です。血液中の脂肪は、人の食事中の脂肪に由来し、肝臓でも生成されます。コレステロールは血中に表れる脂肪の一種です。ただし、老人環の発生は、その患者のコレステロール濃度が高いことを必ずしも意味しません」

■脂質異常症が隠れているケースも

 しかし、45歳くらいまでの人に老人環が出たとしたら話は別だ。放置すれば、心臓疾患、脳卒中などにつながる脂質異常症が見逃される可能性がある。そのため医師は若くして老人環がある人は脂質異常症を疑い、血液検査を行うことがある。

 脂質異常症には、LDL(悪玉)コレステロールが140㎎/デシリットル以上の「高LDLコレステロール血症」、HDL(善玉)コレステロールが40㎎/デシリットル未満の「低HDLコレステロール血症」、中性脂肪が150㎎/デシリットル以上の「高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)」が含まれる。

 ちなみに、LDLコレステロールと中性脂肪の両方とも数値が高い場合はLDLコレステロールの直径が小さい「スモールデンスLDL」となって血管壁に入り込みやすくなり、心筋梗塞などのリスクを一層高めるともいわれている。

「脂質異常症は発症していても本人にほとんど自覚がありません。血液検査を受けて初めて発症の事実を知ったという患者がほとんどです。数少ない自覚症状としては蓄積したコレステロールにより手や足の腱が腫れたり、皮膚にしこりができたりします。これが、上まぶたの鼻寄りにできれば眼瞼黄色腫です。アキレス腱が腫れると心臓病になりやすいという話はここからきています。同様に角膜周囲にコレステロールがたまったときにできるのが老人環なのです」

 脂質異常症と診断された場合、治療はまず食生活の改善だ。

「これまでコレステロールや脂質の多い肉の脂身、卵、乳製品などが多い洋食を中心とした食生活をしていたのなら和食などに変えて、野菜を多くとるようにしましょう。また夕食が夜遅い時間だとカロリーや脂質などが消費されないまま就寝することになり、コレステロール値が高い状態のままになる。夕食は早めに済ませましょう。ただし、食事の回数を減らすと1回あたりに吸収するカロリーや脂質が多くなりやすい体質に変化する。1日3食を規則正しくとることが重要です」

 食事に気をつけていて痩せ形なのに50代未満で老人環が出たという人は、家族性高コレステロール血症の疑いがある。

「家族性高コレステロール血症は生まれつきの疾患です。肝臓の細胞表面にあるタンパク質『LDL受容体』の遺伝子やそれに関連する遺伝子に異常があるために血液中のLDLコレステロールが細胞内に取り込まれず、血液中にたまりやすくなり、脂質異常症の中でも心筋梗塞などのリスクが最も高くなります」

 目は口ほどにモノを言う。年をとればとるほど、ときに自分の目を観察することが大切だ。

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