マスクで声が聞き取りづらい…認知症を招く難聴の疑いあり

写真はイメージ
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「コロナになって、相手の声が聞き取りにくくなった」と話すのは、ある60代の男性。その理由はマスクだ。

 マスクを着けると、どうしても声が伝わりにくくなる。加齢などで聴力が落ちている場合、「聞こえづらい」と感じる機会が一層増えがちだ。冒頭の60代男性は聞き返すことがあまりに頻回で恥ずかしくなり、最近は相手の話をよく聞き取れなくても、うなずくようにしているという。

 慶応義塾大学病院耳鼻咽喉科で難聴の専門外来を受け持つ神崎晶医師が次のように話す。

「聞こえづらさを放置してはいけません。それが続けば脳の衰えにつながります。世界的に高名な医学雑誌では、2017年、20年と2回にわたり、難聴が認知症の最大のリスクであると指摘した論文を掲載しているのです」

 17年の論文では、認知症の65%は医療の介入が不可能だが、35%は介入可能。つまり予防で回避できると報告している。35%の中には、難聴、高血圧、肥満、喫煙、糖尿病、社会的孤立などが含まれ、難聴が最も大きな割合を占めていた。

「難聴の方では、後ろから来た自転車にぶつかって転倒した経験のある人も珍しくありません。聞こえづらいと事故のリスクも高くなります」(神崎医師=以下同)

 難聴の大半は補聴器で対処できる。難聴を“老人のシンボル”と捉え、拒否する人も多いが、認知症や事故対策のためにも、早めに補聴器を検討すべきだ。

 難聴対策のポイントを次に挙げる。

■中年世代から始まる

【難聴は40代前半から始まる】

「難聴=高齢者」という印象が強いが、中年世代から難聴は始まる。2度、3度と聞き返すことが増えたら、耳鼻咽喉科を受診した方がいい。

「認知症との関係を指摘した論文では、69歳まで難聴を放置すると認知症リスクが高いとしています。軽症のうちに補聴器を使い始めた方が慣れやすい。40代でもおかしいと思ったら病院へ」

【“治る”難聴もある】

 たとえば、鼓膜に穴が開く「鼓膜穿孔」だ。耳掃除などで鼓膜に穴が開くと、通常は自己再生能力で1~2カ月のうちに自然に穴が塞がるが、うまく塞がらずに水や異物が入って中耳炎を起こすと鼓膜が再生されず、鼓膜穿孔に至る。すると難聴が生じる。

「これまで耳の後ろの皮膚を切って行う手術しかありませんでしたが、特殊な薬剤(リティンパ)を穴の部分に置くと鼓膜が再生する鼓膜再生療法が日本で世界に先駆けて開発され、昨年11月に保険適用になりました。外来ででき、実質の施術時間は10分ほど。後遺症がほぼなく、聴力改善が期待できます」

 加齢による難聴か、鼓膜穿孔かは、専門医が診ないと分からない。低侵襲性の治療で難聴が改善できる可能性があるのだから、そういった意味でも早めの受診が賢明だ。

【補聴器は認定補聴器店で作る】

 認定補聴器店には、補聴器の調整などに対し基準以上の知識や技能を持つことを認定された補聴器技能者がいる。

「自分に合った補聴器を作るには、細かい調整が何度も必要です。それができるのが補聴器技能者。認定補聴器店で作った補聴器は、確定申告で控除の対象になります」

 補聴器初心者は“目立たなさ”を重視して補聴器を選びがちだが、難聴は今後、進行する可能性がある。聴力低下に応じて調整可能かどうかを確認して選ぶべきだ。

「装着する人の生活様式に応じてモードを変えられる補聴器もあります。会議の時だけ、マスクを着けて外出する時だけ、補聴器を装着するという使い方もあります」

 補聴器は老人のシンボルではない。健康で長生きするための必須道具なのだ。

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