新型コロナでわかった不都合な真実

感染対策のベースになる研究論文はどこまで信じていいのか

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルス感染症で明らかになったことは、感染症対策は一流の医学・科学雑誌に掲載される研究論文によって左右されるということだ。マスクの着用やソーシャルディスタンスはもちろん、治療薬の選択やワクチン開発にしてもその根拠となるのは医学論文だ。そこで問題になるのはこの一流医学雑誌に掲載された医学論文が果たして信頼に足りるのか、という点だ。長浜バイオ大学医療情報学の永田宏教授が言う。

「一流の医学雑誌に掲載されたからといってそれが真実とは限りません。あくまでもある分野について注目される論文について投稿され、それを、その分野で一流とされる複数の学者が査読をし、掲載に値する研究論文として認められれば掲載されているに過ぎず、あとから否定されるケースも少なくありません。それが事実として認められるには、掲載された論文の内容についてその後、同様の研究(追試)がなされ、同様の結果が得られるなど、多くの検証が行われなければなりません。分野にもよりますが、私は追試が行われ、同じ内容の結果が得られた研究論文が2ケタ近く出てこないと真実であるとは考えません」

 実際、ノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶佑・京大名誉教授は受賞時の記者会見で「よくマスコミの人は『ネイチャー、サイエンスに出ているからどうだ』という話をされるけれども、僕はいつも『ネイチャー、サイエンスに出ているものの9割は嘘で、10年経ったら残って1割だ』と言っていますし、大体そうだと思っています」と語っている。

■新型コロナに関する研究論文が数多く作成されているが…

 ところが、突然現れて世界を席巻している新型コロナウイルスについての研究論文は世界中で何万編も作成され、その中のいくつかが科学・医学雑誌に取り上げられているが、異常な事態が続いている。

 追試や検証される間もなく、事実として政策に盛り込まれるケースが出ている。それが世の中の混乱を招いている側面もある。

 例えば、抗マラリア薬で安全性も確かめられているヒドロキシクロロキンと呼ばれる薬が、新型コロナウイルス感染症に有効とされながら今年5月、世界保健機関(WHO)が臨床試験を一時中止し、6月に米国食品医薬品局(FDA)が緊急使用許可を取り消す騒ぎが起きた。日本でも日本感染症学会の「COVID―19に対する薬物治療の考え方第3版」まで記載されていたヒドロキシクロロキンの項目は第4版以降消えた。世界的に権威のある医学雑誌「ランセット」に、新型コロナウイルス感染症により世界671施設に入院した約9万人の患者を対象とした大規模試験の結果、新型コロナへの有用性は認められず、入院中の心室頻拍や死亡率が上昇したと指摘する論文が掲載されたからだ。

 論文の基になったデータは米国の医療データ分析会社が提供したものだったが、その後、この論文にデータを提供したとされるオーストラリアの5つの主要病院が「データは提供していない」と証言。ほかにデータのおかしな点が次々見つかり、この論文は取り消された。英国の報道機関が調べたところ、データを提供したデータ解析会社の本社は民家のようなところで従業員10人ほど。SF作家やアダルト雑誌モデルなどが社員として登録されていて、とても世界中の医療機関がデータを提供しているようには見えなかったらしい。

 要するに、この事件はデータを捏造したやからに他人のふんどしで相撲を取ろうとした専門家が騙されたという構図だ。

 結局、ヒドロキシクロロキンは他の論文でも有効性が否定されていたから、政策変更も問題なく実質的な被害はないとされ、この事件の波紋はうやむやにされたが、新型コロナに関する医学常識や政策には常に危険がはらんでいることは私たちも知っておくべきだ。

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