Dr.中川 がんサバイバーの知恵

ネットに赤裸々投稿 AV男優・沢木和也ががんで学んだこと

がんになってからの経緯や息子さんへの思いを記録
がんになってからの経緯や息子さんへの思いを記録(自身のnoteから)

「がんでよかったな」

 AV男優の沢木和也さん(53)が、インターネットTVでがんになった心境についてこう語り、話題を呼んでいます。頭や心臓の病気で突然死したら、何もできない。がんだったら、終活するための時間があるというのが、その理由だそうで、私も「死ぬならがんで」と思っていますから、同感です。

 沢木さんは、文章や作品を投稿できる「note」にがんになってからの経緯や息子さんへの思いを記録されています。参考になる部分もあるので、かいつまんで紹介しましょう。

 沢木さんは今年4月ごろにセリフ回しの違和感などで受診すると、ステージ4の食道がんが判明し、さらなる検査で咽頭がんも見つかったそうです。当初、放射線で治療され、今は免疫チェックポイント阻害剤のオプジーボで治療されているといいます。

 この治療は、いい組み合わせでしょう。あるところに治療すると、別のところにも治療効果が得られることがあります。それはアブスコパル効果と呼ばれ、放射線と免疫チェックポイント阻害剤の組み合わせで発現しやすい可能性があることが分かってきたのです。

 米国では、予後の悪い甲状腺未分化がんの患者さんでの報告があります。肺に5カ所の転移があり、そのうちの1カ所に放射線を照射する一方、免疫チェックポイント阻害剤を使用した結果、1年で元の甲状腺の病巣も残りの転移巣も腫瘍が消えたのです。これほど劇的な効果はまれですが、今後、期待が持てる治療法といえます。

 がんは骨盤にも転移していて、その痛みで歩けない。横になって同じ姿勢でいるのもつらい。そんな記述もあります。

 がんの骨転移は沢木さんが記しているようにとても痛い。しかし、放射線が有効で、8割以上よくなります。残念ながら日本では、骨転移への放射線治療はあまり行われていないので、ぜひ覚えておくことをおすすめします。

 3つ目が、リンパ節転移に関する記述です。その影響で首を回せないほど痛んだほか、セリフがかすれたのは、そのせいかもしれないといった振り返りもあります。咽頭がんなどがリンパ節に転移すると、症状として声がかれやすい。とてもよくあるのです。

 声帯を動かしている神経は、脳から首を伝わって食道に沿って下りていき、肺のあたりからまた上にあがって喉にある声帯につながります。リンパ節転移でその神経がマヒすると、声がかれやすくなるのです。

 最後に4つ目が、病院の選択。周りに築地の国立がん研究センターか有明のがん研有明病院を勧められたそうです。当時はコロナ禍の拡大で、「普通の総合病院を選んでいたら、診察すらしてもらえなかった可能性が高かった」と振り返っています。確かにそうで、コロナ禍では都道府県のがん診療拠点病院がいいでしょう。

 しかし、高齢だと、ほかに持病があったりしますから、がん以外の病気への対応を考えると、がんに特化した拠点病院より実力のある大学病院がベターだと思います。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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