がんと向き合い生きていく

口腔がんの手術に臨んだ外科医の「気構え」が忘れられない

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 私は「Aさんの治療は、根治手術はできなくても放射線治療と併せての化学療法などはできるのではないか」と答えました。そして結局、AさんはG病院に入院して、放射線・化学療法を行うことになりました。

 その後、がんは小さくなり、痛みも楽になったと聞いて、私もホッとしました。さらに「今後は某大学の口腔外科の医師とG病院の外科医とで連携しながらAさんを診ていただきたい」とアドバイスしました。

■緩和医療が進んだのはとても良いことだが…

 この出来事で、私は自分の学生時代を思い出しました。もう50年以上も前のことです。当時は「緩和」という言葉はありませんでした。

 私は原因不明の耳鳴があって、よく耳鼻科の医局に出入りしていました。夏休みのある日の朝、医局でお茶を飲んでいたら、教授から「佐々木君、これから手術に入る。見るか?」と声をかけられました。私は教授が自分の名前を覚えてくれていたことがうれしくなり、「はい!」と答えました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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