がんと向き合い生きていく

口腔がんの手術に臨んだ外科医の「気構え」が忘れられない

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 手術室に行き、手洗いをして、手術着に着替えました。患者は右の頬が大きく腫れた70代の男性で、手術は「上顎洞がん摘出術」でした。上唇の中央部から鼻翼の右側、右目の下まで縦に切開し、皮膚をはがし、大きな腫瘤を摘出するのです。右上顎から鼻腔、頬骨も切って上顎洞、ほとんど顔の右側半分を切除しました。

 手術中の教授の迫力は凄まじいものでした。

「ん! そこ!」と太い声で指示を出し、助手を務める医師が「は! はい!」と答えながら進行していきます。教授は時々、鋭い目で私の方を睨みます。私はずっと緊張して見ていました。

 大きな塊を取り切った後、今度は皮膚を縫い戻します。もう手術の終わりが近づいていました。ところがここまできて、教授は皮膚が合わなくなっていることに気づいたようでした。大きな塊がなくなったため皮膚が余ってしまったのです。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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