教授はせっかく縫ってきた糸を切って、また縫い直しました。私は「え? こんなこともあるんだ」と驚きました。今も忘れられない思い出です。
当時は、放射線治療も薬物治療も、今とは雲泥の差がありました。手術が唯一の助かる手段でした。ですからあの頃は、手術を行う外科医師の「患者のために治すのだ」という気構え、気迫が凄かった気がします。
最近は、エビデンスに基づいた標準治療、ガイドライン通りに治療を行うのが当然になっているように思います。そして、医療安全対策が進められました。もちろん、命が一番なのは当然のことです。緩和医療が進んだのはとても良いことです。ただ、決して無理はせず、安全策を選択し、危険な手術はしない……。医師の「何としても治すのだ」という気構えが少し弱くなっているのではないかと、心配になる時があるのです。
がんと向き合い生きていく