膵臓がんリスクが2倍近くも増える…「歯周病」の恐ろしさ

セルフケアとプロケアが必要(写真はイメージ)
セルフケアとプロケアが必要(写真はイメージ)

 近年、歯周病は口の中だけの病気ではなく、全身病とも関係していることが明らかになっている。歯周病対策で知っておくべきことを、鶴見大学歯学部探索歯学講座の花田信弘教授に聞いた。

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 歯周病が全身に与える弊害は大きく2つある。「歯周病菌が血液に入り込み、全身を駆け巡ってさまざまな病気のリスクを高める」と、「歯周病によって咀嚼力が低下し、栄養不良に陥る」だ。

 まずは、病気のリスクを高める弊害から触れたい。歯周病が悪化すると、糖尿病、高血圧、脳血管疾患、心疾患などのリスクが高くなることは、複数の研究で明らかになっている。これらの病気に共通しているのが動脈硬化だ。

「歯周病菌の代表的なものがポルフィロモナス・ジンジバリス菌(以下、ジンジバリス菌)です。このジンジバリス菌の外側にある外膜小胞はほかの細胞内に入り込む能力があり、動脈の細胞内に入り込んで慢性炎症を起こすのです」

 動脈の慢性炎症が起こると、血液中のLDLが動脈の内膜に入り込んで酸化LDLになる。それを処理するために白血球の一種がマクロファージに変化し、酸化LDLを取り込み炎症性物質を放出する。すると慢性炎症を誘発し、動脈硬化が進行する。

 歯周病はすべてのがんのリスクを上げることも指摘されている。

「かつてはがんは遺伝子の突然変異だと考えられてきました。しかし今は、慢性炎症でメチル化異常(染色体内の化学反応)が遺伝子に起こり、がん抑制遺伝子が働かなくなり、細胞ががん化することが分かっています。つまり、歯周病菌が全身の臓器に血液で運ばれ慢性炎症を起こすと、遺伝子のメチル化異常などが誘発され、がんのリスクを上げるのです」

 膵臓がんは予後が非常に悪いがんとして知られるが、ジンジバリス菌の保菌者は膵臓がんの発症リスクが1・6倍高くなり、歯周病菌の別の菌、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス菌の保菌者は、膵臓がんの発症リスクが2・2倍高くなるという研究結果もある。

「膵臓がんの危険因子に糖尿病があります。糖尿病は歯周病との関連が深く、内科医は糖尿病が膵臓がんの危険因子と捉え、歯科医は歯周病が膵臓がんのリスク因子と捉えています」

■認知症にも関係

 アルツハイマー型認知症にも、歯周病が関与している。

「前出の通りジンジバリス菌には、ほかの細胞内に入り込む能力があります。それによって、血液脳関門を突破し、脳の中に入り込むのです。ジンジバリス菌は脳のアミロイドβの沈着を促し、アルツハイマー型認知症のリスクを上げます」

 ある研究では、アルツハイマー型認知症で亡くなった10人中4人の脳にジンジバリス菌の毒素LPSが検出され、アルツハイマー型認知症でなかった人の脳からは一人も検出されなかった。

 さらに、アルツハイマー型認知症で亡くなった人の海馬にはジンジバリス菌のLPSが存在していたことを突き止めた研究報告もある。

 歯周病が歯や歯の土台にダメージを与え、咀嚼力を低下させるのも、健康長寿を考える上では大問題だ。

「食べられるものが限定され、栄養面に偏りが出ます。軟らかく煮込んだ料理しか食べられなくなると、ビタミンA、C、Eといった抗酸化物質を取りにくくなる。すると体内の酸化ストレスが増え、慢性炎症が起こりやすくなるのです」

 がんはステージによっては治療が難しく、アルツハイマー型認知症はいまだ治療薬がない。一方、歯周病は予防や治療で進行を抑えられる。がんや認知症をはじめとする重大病のリスクを減らせるのだ。このチャンスを逃してはいけない。

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