がんがステージ4だと知ったときは、ショックというよりも「やられたな」と思って、まだ中学生の息子の顔を思い浮かべながら「この先のことを考えなきゃいけない」と思った。
「なんかおかしいな」と感じたのは、今年の2月下旬、撮影現場でセリフの語尾がかすれて、うまく声が出なくなったときだった。胸に痛みのようなものもあったので、すぐに近所の病院の呼吸器科を受診して、CT検査で心臓や肺などを調べたんだ。だけどそこでは特に異常がなくて、医師はなぜか「耳鼻科に行け」って言うんだよ。「耳鼻科ってことはないだろう」と思って、行きつけの内科に行って、なんとなく症状を訴えてみたんだ。
そこはピロリ菌の検査でときどきお世話になっているクリニックなんだけど、5~6年ほどサボっていたので、「久しぶりに胃カメラでもやりますか?」という話になった。すると、食道に素人目でもわかるほど絵に描いたような影があって、大きな病院を紹介されて精密検査になった。そうしたら、食道のほかに喉にもがんが見つかり、双方が原発のがんだって。すでに薄くつながるように喉から食道全体ががんだった。それが今年3月24日のこと。
40歳で子供ができたときに人間ドックで全身を調べたし、ときどき胃カメラ検査もしていたから、自分は健康だと思っていた。それにどちらかといえばうちは脳出血の家系だったから、がんは本当に意外だった。
原発が2つとわかって、国立がん研究センター中央病院に移ったら、そこで骨盤への転移も見つかった。でも、まずは原発である喉と食道への抗がん剤と放射線治療が優先されて、5日間入院して、1回96時間(4日間)の抗がん剤投与をして、その後は自宅で3週間休むというクールを2回やった。
ほぼ同時進行で放射線治療も行い、約50日、土日以外は毎日がん研に通った。自宅からだと片道約30キロ。車の運転は嫌いじゃないから楽しかったけど、たった5分の放射線のためによく通ったよ(笑い)。
おかげで、食道と喉のがんは目で見てもわからないくらい小さくなった。でもその間に、手を付けていなかった骨盤の方に痛みが出てきて、片脚を引きずるようになったんだ。腸骨という部分がグチャグチャになってるって。ただ、それも放射線をして時間が経つと骨ができてきたから、今はなんとか歩けるところまで回復した。
■オプジーボから先の治療をやるつもりはない
もっとも、モルヒネみたいな痛み止めの麻薬を何種類も飲んでいる。常に軽い痛みはあるから毎日飲んでいて、発作的にやってくる激痛用の薬も持っている。それは、「あ、来るな」ってタイミングで飲まないと効かなくて、それを逃して発作が始まると1時間はまったく動けなくなるんだ。そうかと思えば、今度は肺や腎臓に転移が見つかって、今はオプジーボという新薬を2~3週間に1回、近場の病院で1時間かけて点滴しながら経過を見ているところ。すでに手術もできない状態だったし、がん研ではもうやることがないってことなんだ。
オプジーボは、肺や食道に効くといわれている薬らしいから期待しているんだけど、じつは効くのは3割ぐらいで、10人のうち7人には効かないともいわれてる。これでダメだったら、ほかの抗がん剤を組み合わせて試すって話だけど、医師は「効果が低くて副作用はつらい。やるかやらないかは沢木さんが決めてくれ」って……。だから今のところオプジーボから先の治療をやるつもりはないんだ。ただ、「抗がん剤をやめたほうが長生きできる人もいる」というのがポジティブ材料かな。実際、がんが落ちついて今は人生で一番食欲があるので、薬は医師と相談しながら徐々に減らしている。
せめてあと3~4年、息子が高校を卒業するまでは生きていたい。もう自分の命はどうでもいいけど、息子のことが気がかりで仕方がないんだ。なにしろ、貯金ってものをしてこなかったからね。
自分で言うのもなんだが、俺は20代からAVの世界で人よりも少しばかり稼いできた。でもあればあるだけ使ってしまって、それは結婚しても子供ができても変わらなかった。保険には入っていたから入院するといくらか入ってくるけど、病気になって初めてこんなにお金がかかるのかと痛感して、「貯金は必要だったな」と後悔している。
ただ、自分の生き方は決して後悔してない。53歳でがんになったのはちょっと早かったけれど、飲み過ぎや遊び過ぎもいい経験だったし、そこで得たモノや人脈は必要なものだったと思っている。
今、俺がデザインしたマスクを販売してくれたり、クラウドファンディングで自伝出版の企画が進んでいるのも、「沢木のために」と言ってくれる人たちのおかげ。元気になったら“フル勃起”したいね。もう7カ月もしてないから、不安になっちゃうよ(笑い)。
(聞き手=松永詠美子)
▽さわき・かずや 1967年、埼玉県生まれ。20代でAV男優としてデビューし、90年代のアダルトビデオ創成期を支えた。代表作に「沢木和也のナンパ王国」「沢木和也のナンパ帝国」などがある。1994年に結婚し、2005年に長男が生まれる。今年、がんが発覚して現在も治療中。クラウドファンディングによる自伝出版が進行中のほか、「沢木デザイン・マスク」が発売中。https://note.com/k_sawaki
沢木和也さん(AV男優・53歳)=食道がん・咽頭がん