専門医が教える パンツの中の秘密

コンドームの分類は「管理医療器具」重要性を見直すべき

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写真はイメージ(写真:iStock)

 コンドームの効能・効果は「避妊」と「性感染症予防」にあることは、ご存じの通りです。しかし、薬機法(旧・薬事法)の医療機器に該当し、「管理医療機器」に分類されていることを知らない人は多いと思います。

 管理医療機器の販売には基本的に「届け出」が必要ですが、電子体温計とコンドームについては届け出の必要はありません。それはコンドームの目的が「性感染症予防」であるため、誰もが手軽に入手できるように配慮されているのです。

 相模ゴム工業のホームページにある「コンドームの歴史」によれば、コンドームの起源は紀元前3000年ごろの初期エジプト王朝時代までさかのぼり、ヤギやブタの盲腸、膀胱(ぼうこう)が使用されていたそうです。

 しかし、当時は避妊具や性病予防具としてではなく、熱帯病や虫刺されから陰茎を守る保護具や性交時の小道具、身分・地位のしるしとして用いられていたようです。

 その後、1600年代では牛の腸膜や魚の浮袋などが使われ、1874年に避妊具・性病予防具としての本格的なコンドームが出現したとされています。

 日本では1909(明治42)年に国産第1号のコンドームが登場し、33(昭和8)年に現在のコンドームの基礎となるラテックス製コンドームが誕生します。戦前までのコンドームの主たる目的は性感染症予防です。当時は梅毒や淋病が遊郭などから蔓延(まんえん)し、命を奪う病気として恐れられていたからです。

 戦時中は「産めよ増やせよ」の時代ですし、当時は抗生物質がなかったので、戦闘ではなく性感染症で軍が滅ぶ恐れがありました。それで、コンドームは軍事物資として生産され、軍用では「突撃一番」「鉄兜(かぶと)」などの名称の製品が兵士に配布されていました。

 それが戦後、外地からの引き揚げ者650万人という人口増加による第1次ベビーブームが起こると一変します。一般家庭にコンドームが普及し、主たる目的が性感染症予防から妊娠予防へと変化するのです。

 また、48(昭和23)年までは、例外(強姦など)を除き、産婦人科での避妊・中絶・不妊手術などは、刑法で「堕胎罪」として禁止されていました。

 国内のコンドームの生産量は第2次ベビーブーム(70~75年)でピークを迎えます。そして、再び性感染症予防として脚光を浴びるようになったのは79年の「HIV」(エイズ)の発見です。

 唯一のHIV予防具として世界的需要が高まったのです。医療機器としてのコンドームの重要性を、あらためて見直してもらいたいと思います。

尾上泰彦

尾上泰彦

性感染症専門医療機関「プライベートケアクリニック東京」院長。日大医学部卒。医学博士。日本性感染症学会(功労会員)、(財)性の健康医学財団(代議員)、厚生労働省エイズ対策研究事業「性感染症患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究」共同研究者、川崎STI研究会代表世話人などを務め、日本の性感染症予防・治療を牽引している。著書も多く、近著に「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)がある。

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