コロナ第3波に備える最新知識

有効性9割超「mRNAワクチン」はどこまで期待していいのか

米ファイザー社の新型コロナウイルスワクチン
米ファイザー社の新型コロナウイルスワクチン(C)ロイター/Dado Ruvic

 新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めをかける“光”になるのだろうか。今月9日、米国の製薬大手ファイザーが、ドイツのバイオ企業ビオンテックと共同開発を進める新型コロナウイルスワクチンの臨床第3相試験の中間解析結果を発表。90%以上の有効性が確認されたという。

 今回の治験では、参加した4万3538人の半数にワクチン、半数にプラセボ(偽薬)を3週間空けて2回接種し、94人に陽性が確認された。それ以上の詳細な数字は明らかにされていないが、有効性が90%超ということは、病状が表れる患者のほとんどはプラセボを投与されたグループで、陽性となった94人のうちワクチンを接種した人は8人より少ないことになる。

 ファイザーは安全性に関する必要なデータが揃い次第、11月3週目に米国食品医薬品局(FDA)への緊急使用許可申請を行い、年末までに5000万回分のワクチンを製造する予定だという。どこまで期待できるのか。米国の研究機関で遺伝子研究に携わってきた岡山大学病院薬剤部の神崎浩孝氏は言う。

「今回の治験では、長くても3カ月後の効果までしか検証されていないため、ワクチン接種によって感染を防げるのは、どれくらいの期間なのかはわかっていません。また、陽性が確認された被験者の詳細も発表されていないので、ワクチンが重症化や合併症を予防できるかについてもはっきりしません。そうした課題はいくつもありますが、画期的なワクチンであることは間違いなく、ある程度の期待はできると考えています」

■ウイルスの「スパイクタンパク質」だけを作る

 今回のワクチンが画期的とされるのは「メッセンジャーRNA」(mRNA)を使ったところにあるという。ヒトの体内に侵入したウイルスが増殖するには、細胞にくっついて内部まで入り込む必要がある。そのために、ウイルスは自身の表面にある突起状の「スパイクタンパク質」を鍵として使い、鍵穴にあたるヒトの細胞膜上の「ACE2受容体」に結合させる。

「今回のワクチンは、新型コロナウイルスがスパイクタンパク質を作るための遺伝情報が書き込まれたmRNAを封入した粒子を使っています。体内に新型コロナウイルスのスパイクタンパク質だけを作りだし、ウイルスに対する抗体を産生させる仕組みです。これまでのさまざまな感染症に対するワクチンは、活性を弱めたり毒素を失わせたウイルス=病原体が使われていました。そのため、ワクチン接種によって感染してしまうリスクがゼロではありませんでした。しかし、今回のmRNAワクチンはウイルスそのものを使わないのでそうしたリスクはありません。また、mRNAは役割を終えると分解されて体内に残らないため、副作用の不安も小さいといえます」

 ただし、そんな利点が同時に最大の課題になるという。

「分解されやすいということは、mRNAは扱いが難しく品質が劣化しやすいということです。今回のワクチンは投与する直前までマイナス70度以下の温度を保つ必要があるとされていて、輸送や保管の体制を整えなければなりません。そこまで低い温度を維持するには、液体窒素で満たした保管容器も必要で、莫大なコストがかかるでしょう。そうした設備やノウハウがない一般的なクリニックや病院で、広くワクチンが使えるようになるには高いハードルがあるといえます」

 まだまだ時間がかかりそうだ。

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