役に立つオモシロ医学論文

入院増が懸念されていたが…コロナ禍で「喘息」の悪化が減少

懸念されていたが、以外にも減少?!
懸念されていたが、以外にも減少?!

 新型コロナウイルスは、ご高齢の方や持病を患っている方で重症化するリスクが高いと考えられています。例えば、喘息(ぜんそく)のような呼吸器の疾患を治療中の人では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、病状の悪化による入院や緊急受診が増加するのではないかと懸念されていました。

 そんな中、米国アレルギー・喘息・免疫学会誌の電子版に、日本における新型コロナウイルスの感染拡大と、喘息による入院件数の関連性を検討した研究論文が、2020年10月13日付で掲載されました。

 この研究では、日本の医療機関272施設の入院データが解析の対象となりました。新型コロナウイルスの感染が拡大した19年12月30日~20年5月31日と、17~19年の同時期における、喘息による入院件数が比較されています。解析の結果、1週間当たりの喘息による平均入院件数は、17~19年に比べて、20年で55%、統計的にも有意に減少していることが明らかとなりました。年齢別に解析したところ、小児では63%、成人では44%、いずれにおいても減少していました。

 新型コロナウイルスの感染拡大により、喘息の病状が悪化し、入院件数の増加が懸念されていましたが、意外にも件数は大きく減少していました。

 つまり、コロナ禍において、喘息を患う人の多くが病状を良好に維持できていた可能性が示されているのです。この原因として、論文著者らは適切な感染対策などによる健康状態への配慮、喘息治療薬をきちんと使用していた人の増加、外出が減ったことによる大気汚染物質へ接触する機会の減少などを挙げています。

 喘息の病状を良好に保つうえで、人の行動や環境への配慮が重要であることを示唆する、貴重な報告といえるでしょう。

青島周一

青島周一

2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。

関連記事