上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

手術の進歩は患者の負担を小さくする「低侵襲化」にある

順天堂大学医学部付属順天堂医院の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 患者さんにとって低侵襲な治療は回復を早め、生活の質を損なわずに済むメリットがあります。しかし同時に、従来の治療に比べて質が落ちていないか、経過が悪い医療を強制されていないかどうかをしっかり監視する必要があります。

 かつて胃がんの手術では、胃をすべて摘出する方法が王道でした。これなら、医療者側は「がんはすべて取り除きました。がんができる胃はないので再発もありません」と断言できてしまいます。しかし、近年は必要以上に胃は切り取らず、機能を残したほうが術後の生活の質が高くなることがわかっています。再発のリスクはありますが、5年後、10年後を見てみると、胃を全摘出した人のほうががん再発以外の要因で早く亡くなっているというエビデンスが示されたのです。

 患者さんの負担をより小さくしつつ治療の質をアップする。なおかつエビデンスで証明される。それが「手術の進歩」なのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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