人工骨を使わない歯科インプラントは腫れない、痛くない

人間には組織の再生能力がある(写真はイメージ)
人間には組織の再生能力がある(写真はイメージ)/(C)PIXTA

 歯科インプラントというと、治療期間が長く怖いというイメージを持つ人が多い。実際、治療には半年以上かかるのが普通で、治療後に患部が腫れて、痛みが出たという患者さんも少なくない。その原因のひとつにインプラント治療に使われる人工骨と呼ばれる歯科材料があるという。自由診療歯科医師で「八重洲歯科クリニック」(東京・京橋)の木村陽介院長に話を聞いた。

 歯科インプラント治療とはあごの骨にチタンなどのボルトを埋め込み、その上に人工の歯をつくる治療のこと。その前治療として多くの歯科医師は歯周病などで溶けたあごの骨(歯槽骨)を人工骨を使って補強するのだが、それが原因でさまざまなトラブルが発生すると木村院長は言う。

「人工骨は骨の成分であるハイドロキシアパタイトと呼ばれるカルシウムとリン酸などの化合物や牛などの動物の骨を処理したものなどでつくられています。その粒子をやせた歯槽骨の上に載せて時間が経つと、骨芽細胞が粒子を包むように伸びてきて、その部分に骨が再生されるのです。しかし、人工骨は人間にとって異物ですから人工骨が存在する場所に炎症が起きて痛みや腫れが生じることがあります。時には細菌が感染してあご全体が腫れ上がっておたふく風邪のような症状になる場合もあるのです」

 実際、木村院長のクリニックには他院で歯科インプラント治療中の女性に同様な症状が出て駆け込まれたケースもあったという。

「この患者さんは入れた人工骨を取り去る手術が必要になりました」

 人工骨には骨が再生される途中で吸収されてしまうタイプと人工骨が残るタイプがある。感染リスクが高いのは後者のタイプで、治療後もそのリスクは天然骨に比べて高くなるという。

「ただし、骨再生の途中で人工骨が吸収されて消失するタイプも、インプラント治療後に再生された骨がなぜかやせやすいといわれています」

 ならばなぜ多くの歯科医師は人工骨を使うのか?

「それは多くの歯科医師が人工骨には骨をつくる能力があり、患者さんのやせた歯槽骨を再生させるには人工骨が必要と教えられ、信じているからです。しかし、私はそうは思いません。現に私は人工骨をまったく使わずにインプラント治療をしており、この治療を始めて10年以上になりますが問題は起きていません。90代の患者さんにも3年前にこのインプラント治療法を行いましたが、インプラントでバリバリ食べています」

■人間には組織の再生能力がある

 木村院長のやり方は実に簡単だ。骨を再生したい部分を専用のシートで覆い、コラーゲンや採血により患者さん自身の血液でつくったフィブリンの塊をその中に入れておくだけ。3カ月ほどで骨はインプラントに必要な骨量を回復。最初は治療した骨に負担がかからないよう、硬いものを食べないように指示するが、その後1カ月も経つと再生した骨の骨密度が向上して、もともとあった自家骨と変わらなくなるという。

「もともと人間は欠けた組織を再生する能力があります。再生するために必要な時間、必要な場所に組織を再生するのに必要な細胞が活動するための空間があれば再生できるのです。コラーゲンやフィブリンはもちろん、人工骨もその空間をつくるためのものに過ぎず、それ自体に骨を再生する力などありません。私がコラーゲンやフィブリンを使うのは、極力固形物を入れず、早く骨を再生するのに役立つからに過ぎないのです」

 つまり、骨を再生するための空間づくりに固形物を体内に入れる必要はないと木村院長は言うのだ。

「私に言わせれば人工骨を使って歯科インプラントをするなんて百害あって一利なしです。口腔内は多くの細菌がひしめきあっていて、感染する機会をうかがっています。わざわざそんなところに固形物を入れるなんて考えられないことです。人には自分を再生する力があります。それを引き出す治療法こそがこれから求められているのではないでしょうか」

 医学の進歩は早い。かつての常識はすぐに過去のものとなる。

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