Dr.中川 がんサバイバーの知恵

中村泰士さんは薬で克服 肝臓がん予防の第一は感染検査で

中村泰士さん
中村泰士さん(C)日刊ゲンダイ

「北酒場」の作曲などでおなじみの作曲家・中村泰士さん(81)が、肝臓がんと報じられました。9月末に体調不良で検査を受けたところ、肝臓の腫瘍が判明。すでに抗がん剤治療を終え、転移はなく、経過が順調なのは何よりでしょう。

 肝臓がんの原因は、8割がウイルス感染です。A、B、C、Eの4種類ある肝炎ウイルスのうちB型とC型の肝炎ウイルスがそれ。いずれかに感染すると、慢性肝炎から肝硬変に進行し、やがて肝臓がんを発症します。B型とC型の感染者は、合計350万人に上りますから、決して他人事ではありません。

 肝臓がんのうち、65%がC型肝炎由来で、15%がB型肝炎由来。数としては圧倒的なC型は、B型より感染力が弱い。感染ルートは、汚染された血液の輸血や血液製剤の投与が主でしたが、今では輸血用血液からウイルスがしっかり除去されていて、新規の感染者は珍しくなっています。たとえC型に感染しても、100%近い確率でウイルスを駆除できますから、今後C型由来の肝臓がんは減るでしょう。

 厄介なのはB型です。こちらは感染力が強い。輸血のほか注射器の使い回し、入れ墨、母から胎児への母子感染、さらにセックスと感染ルートがさまざまです。コロナウイルスと同様に、感染源を特定できないことも少なくありません。

 B型がつらいのは治療を受けても、ウイルスを駆除しづらいこと。効果は3~4割。この点を踏まえ、慢性肝炎の進行を抑える治療を続けることになるのです。

 でも、B型を巡っては福音があります。ワクチンがあるのです。ワクチンを子供の頃に接種しておけば、ほぼ100%抗体ができ、感染を予防できます。米国では、接種していないと、小学校の入学が認められません。B型肝炎ワクチンの接種は世界の常識で、遅ればせながら、“ワクチン後進国”の日本も、4年前から定期接種の対象になりました。

 こうしてみると、B型とC型の肝炎ウイルスに対する予防と治療が進んでいて、肝臓がんは多くが食い止められることが分かるでしょう。そこを踏まえると、肝臓がん予防の第一は、感染の有無を調べる検査です。

 実は感染者の過半数が検査を受けておらず感染を知りませんが、検査を受けたことがある人は50%以上が会社での健康診断に検査が含まれていたり、職場で検査が実施されたりしていて、職場健診の重要性が分かっています。職場での肝炎検査がない人は、ぜひ保健所へ。無料で肝炎検査が受けられます。

 ちなみに、中村さんが受けた抗がん剤治療は、手術ができない人や肝臓の門脈という血管に腫瘍が浸潤している人などが対象で、肝臓の動脈に直接抗がん剤を流し込む治療法です。

 全身に投与するより、高濃度の薬剤を投与でき、治療効果が高い。その後、薬剤は全身に回りますが、全身化学療法より副作用が少ないこともメリットです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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