都内に住む45歳の女性は、最近父親の言動が気になっていると言う。「父は70歳。この1年で、昨日今日の出来事を忘れることがかなり増えました。病院に連れて行き認知症の検査を受けさせたいのですが、性格が頑固で子供の言うことを素直に聞いてくれるとは思えません。どうすれば……」
国際医療福祉大学熱海病院検査部の〆谷直人部長によれば、認知症は早期発見、早期治療開始がとても大切。
「どの段階で治療を始めるかで、その後の進行や暮らしを左右します。本人が病院に行くことに難色を示したとしても、診察を受けてもらうように仕向けなければなりません」(〆谷部長=以下同)
だが、どのようにして病院に行くことを促せばいいのか。思い浮かぶのは「健康診断に行こう」「病院に付き添ってほしい」など、嘘をついて親を病院に連れて行き、認知症の診察を受けさせる方法だが……。実はこの方法はご法度。嘘だと分かった後で、余計に病院から遠ざかってしまいかねない。
「もの忘れのひどい高齢者は、自分が以前と違うと薄々気付いています。これからどうなるのかという不安があるし、病院で認知症と診断されてしまうことも怖い。だからこそ身内から『ぼけた』と言われたら、抵抗するために『ぼけてない』と言い張るしかない」と〆谷部長。
本人のこういう気持ちを、家族が理解することがまず重要。その上で「決して馬鹿にしているのではない。このまま病気が進めば大変なことになると心配している」と心を込めて説明し、根気よく受診を説得する必要があるという。
また、「私(家族)のために診てもらって。お願い」とひと言付け加える。「認知症の人も、夫であり、妻であり、人の親ですので、家族への気遣いは十分残っています。本人が納得した上で受診すると、きちんと検査を受け、たとえ認知症であっても治療に積極的になってもらえるでしょう」(〆谷部長)
なお、初期の認知症の人は「精神神経科」に強い抵抗がある場合も。病院を受診する際はできるだけ抵抗の少ない「物忘れ外来」「老年科」「心療内科」「神経内科」などを。そこで一般的な診断を受けてから、認知症専門の診療に移行するのがいい。このほかに、かかりつけの医師に協力してもらうのもひとつの方法だ。医師から「知り合いのいい先生を紹介しよう」と薦めてもらい、紹介状まで渡されると素直に従う人が多いという。 認知症相談をしている保健所や地域包括支援センターに誘う手段もある。ここなら病院よりも抵抗が少ない。保健所や地域包括支援センターから病院への受診を薦められると、身内の言葉よりもすんなりと受け入れられる人もいるようだ。
「死ぬまで元気」を目指す