専門医が教える パンツの中の秘密

近年注目される「髄膜炎菌性尿道炎」症状は淋病にそっくり

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「髄膜炎菌」という病原体をご存じでしょうか。髄膜炎を引き起こす細菌であることは間違いありませんが、髄膜炎は髄膜炎菌だけが原因で起こるわけではありません。髄膜炎は、細菌が原因の「細菌性髄膜炎」と、その他のウイルスなどが原因の「無菌性髄膜炎」に分けられます。

 髄膜炎菌は細菌性髄膜炎の原因菌のひとつですが、日本ではヒブ(インフルエンザ菌b型)や肺炎球菌による髄膜炎の方が発症数が多いので一般的に知名度が低いのです。ただし、髄膜炎菌による「髄膜炎菌性髄膜炎」の発症率は低い(2018年報告で37例)ものの、致死率は19%と高いので決して油断できません。

 5類感染症の髄膜炎菌性髄膜炎は、13年4月から「侵襲性髄膜炎菌感染症」に名称が変更されました。そして、診断した医師は7日以内に保健所に届け出る必要がありましたが、その基準も15年に改定され、現在は診断後直ちに届け出るように定められています。

 このように怖い病原体ですが、自然環境では生存できず、人間以外の宿主から検出されることはありません。人間が唯一の保菌者となり、主な感染経路は飛沫(ひまつ)感染です。

 しかし、感染しても多くの場合は一時的に鼻やのどの奥に定着して保菌者になったり、そのまま消失したり、発症することはまれです。

 それが体力が低下しているときや免疫疾患がある場合に、気道を介して血中に入り敗血症を起こしたり、髄液まで侵入して髄膜炎を起こしたりするのです。他にも「肺炎」「関節炎」「骨髄炎」などの原因にもなります。

 そして、近年では発症数は少ないですが「髄膜炎菌性尿道炎」が注目されています。経路は、健康な保菌者ののどに定着している髄膜炎菌がオーラルセックスによって尿道に感染すると考えられています。

 髄膜炎菌性尿道炎は「排尿初期痛」、尿道口から出る「クリーム状の膿(うみ)」が典型的な症状です。しかし、この症状は淋菌性尿道炎(淋病)とそっくりで区別がつきません。尿道炎の原因は「淋菌」と「クラミジア」が7割を占めます。ですから、通常の尿検査(核酸増幅法)をやっても陰性になります。培養検査をやって初めて髄膜炎菌が原因であることが分かるのです。

 症状は抗生物質で治ります。しかし、問題は感染源であるパートナーの治療です。保険診療では髄膜炎菌の健常保菌者への抗生物質の処方はできないからです。この場合、自由診療の性感染症専門施設で治療してもらうのがいいでしょう。

尾上泰彦

尾上泰彦

性感染症専門医療機関「プライベートケアクリニック東京」院長。日大医学部卒。医学博士。日本性感染症学会(功労会員)、(財)性の健康医学財団(代議員)、厚生労働省エイズ対策研究事業「性感染症患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究」共同研究者、川崎STI研究会代表世話人などを務め、日本の性感染症予防・治療を牽引している。著書も多く、近著に「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)がある。

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