Dr.中川 がんサバイバーの知恵

日米調査で判明 心筋梗塞とがんの患者数減少の意味の違い

検査はためらわないで
検査はためらわないで(C)日刊ゲンダイ

 検診や受診を控えるのはやめてください。この連載で何度となくそう書いてきました。がんの診断や治療が遅れることを危惧したためですが、恐れていたことが具体的にデータとして報告されています。

 たとえば、米国では全退役軍人病院のデータを昨年同期と比較。脳梗塞、心筋梗塞、心不全、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、虫垂炎、肺炎の入院患者数がすべて減っていました。

 実は米国では、心筋梗塞や狭心症に不可欠のカテーテル検査や治療の件数も、前の年に比べると5割近く減っています。

 この2つのデータから読み取れるのは何でしょうか。心筋梗塞や狭心症の患者は、自然に減ることはありませんから、患者は新型コロナウイルスへの感染を恐れて何らかの症状がありながらも受診を控えたため、見かけの入院患者数が減ったのがひとつです。もうひとつは、新型コロナ対応の余波で、病院側がコロナ以外の病気の治療に手が回らないこともあるでしょう。

 その結果、浮かび上がるのは次の予測です。コロナの影響で診断されずにいる心筋梗塞や狭心症の患者が増えているといえるでしょう。その予測は、ほかの病気にも当てはまります。

 がんも“減少”していて、コロナが拡大する1~2月と比べると、4月の新規がん患者数は大腸がんと乳がんで半減。肺がんや胃がんなども減っています。

 その傾向は日本でも顕著です。国立がん研究センター中央病院のデータでは、今年上半期に行われた胃がんの手術は90件。昨年の同時期は153件でしたから41%減です。東大病院も、胃がんの手術は昨年上期に比べて43%も減っています。

 今年は、全体的にがん検診の受診者が減少。例年の3割減で、特にその影響が大きいのが胃カメラです。検査を行う医師と受ける患者の距離が近いため、病院側も患者側も敬遠しています。その結果、手術で治療可能な早期胃がんを発見できないことも、手術件数減少の要因のひとつといえるでしょう。

 生活習慣病の治療をきちんと受けているかどうかはともかく、心筋梗塞や狭心症は症状が表れて発見されます。米国での患者数減少報告は、検査自粛による影響というより、実は病院がコロナ以外の病気に対応できないことを意味する方が大きいかもしれません。

 がん患者の検査数や治療数の減少は、検査自粛の影響が強い。“自爆”の側面が否定できませんから、背景は随分違うのです。

 つまり、コロナ以外の病気のデータは、医療崩壊が目前に迫っていることを突きつけています。次回は、医療崩壊の影響について説明しようと思いますが、皆さん、がん検診や持病の検査はきちんと受けましょう。年内は混雑しているので、閑散期の年明けから3月までにぜひ!

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

関連記事