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脳<下>ランセット誌に掲載 認知症を回避する9つのポイント

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 英国の権威ある医学雑誌「ランセット」の認知症予防・介入・ケアに関する国際委員会が、これまで報告された数々の研究結果を解析し、「自分次第で改善できる認知症の9つのリスク要因」を発表している。

 年代によって、そのリスク要因は分かれている。小児期の「低学歴(11~12歳に教育が終了)」。中年期(45~65歳)の「高血圧」「肥満」「難聴」。高年期(65歳以上)の「喫煙」「抑うつ」「運動不足」「社会的孤立」「糖尿病」だ。これらのリスク要因を、その年代のうちに一つでも多く排除するように努めることが、認知症予防になるわけだ。

 いわゆる「脳トレ」と呼ばれるさまざまな種類の本やゲームなどが売られているが、認知症予防効果はあるのか。認知症専門医で「医師が認知症予防のためにやっていること。」(日経BP)の著者、聖路加国際大学の遠藤英俊臨床教授が言う。

「まだエビデンスは少ないですが、WHO(世界保健機関)も『認知機能トレーニング』は有効だと指摘しています。ただし、効果が期待できるのは頭をしっかり使って考える問題です。反射神経を競うだけのゲームには、あまり効果はありません。考えて答えを出す問題でも、同じ問題を繰り返し続けていても意味がありません。常に新しい問題やゲームに挑戦することがポイントです」

 米国では、認知症予防に「人生ゲーム」が活用されているという。何人かが顔を合わせて「コミュニケーション」を取りながら「頭を使う」、ゲームをしながら「自分の人生を振り返る」というのが良い点だ。「マージャン」「オセロ」「囲碁」「将棋」などのゲームも勧められるという。

■5時間20分超のおしゃべりは逆効果

 特に一人暮らしで、定年後に他人との交流がなくなり、会話もないという「社会的孤立」は絶対に避けなくてはいけない認知症のリスク要因だ。人の脳は、しゃべることで神経細胞同士のやりとりが盛んになり、脳が活性化する。会話のない生活が多いと使われない神経細胞のネットワークが除去されてしまうのだ。

 スウェーデンの75歳以上の1203人を3年間追跡した研究では、家族や友人が多く社会的接触が多い人に比べ、接触が少ない人は認知症の発症率が約8倍になるという結果が出ているという。このようなことからも定年後も「できるだけ仕事を持つ」、リタイアしたとしても「同窓会に出席する」「趣味の集まりに参加する」「近所の人が集まる喫茶店に顔を出す」「ボランティアに参加する」などをした方がいい。

「国内で約1000人を対象に行われた共同研究の結果では、認知症予防には『1日約3300歩以上の運動』『適度な会話』『睡眠』が有効という報告がありました。会話は、1日に1時間20分から5時間21分が効果的といいます。それ以上になると1日の運動量が減る傾向があるからです。コロナ禍で他人と会話しにくい状況ですが、マスクを着けて毎日最低1時間は誰かと話をするようにしましょう」

 運動も認知症予防になる。中でもハッキリ効果が報告されているのは、ウオーキング、水泳、エアロビクスなどの「有酸素運動」だ。高齢者を5年間追跡調査した海外の研究では、歩行よりも強い有酸素運動を週3日以上行っていた人たちは、そうでない人たちに比べて認知症を発症するリスクが、有意に低いことが報告されている。

 認知症予防に効果が期待できる有酸素運動には、国立長寿医療研究センターが提唱・実践している「コグニサイズ」がある。例えば、左右にステップを踏みながら、歩数が3の倍数になったところで手を叩くというふうに「有酸素運動+知的活動」で体と頭を同時に活性化する運動だ。

 しかし、もっと簡単にコグニサイズができる方法がある。

「これまで運動習慣がなかった人は、まず『週3回、30分の早歩き』を目標に始めてみてください。その際に、すれ違う自動車のナンバープレートを見てください。そして、例えば『1188』なら、『いいパパ』とゴロ合わせの言葉を考えてみる。または、最初の2ケタの数字と後の2ケタの数字を足したり、引いたりしてみる。4ケタを足してみる。1万から4ケタの数字を引いてみる。このようなことでも体と頭を同時に鍛えるコグニサイズになります」

「社交ダンス」や「ゴルフ」もコグニサイズの一種という。社交ダンスのステップを覚えるのは認知機能を鍛えることになり、何より“異性との接触”が脳にいい。ゴルフはスコアをカウントしたり、風向きやコースのつくりによって、どう打つか頭を使うからだ。

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