死亡率を上昇させる「不安」な感情は腸を整えて軽減する

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 新型コロナウイルスの感染拡大がさらに加速していることで、不安な毎日を過ごしている人は多いだろう。しかし、不安を常に抱えていると健康を害することがわかっている。どうやって不安に対処すればいいのか。「江田クリニック」の江田証院長に詳しく聞いた。

「不安」とは「はっきりした対象のない恐れの感情」と定義されている。明確な対象が存在する恐怖とは区別され、たとえば、「自分は病気かもしれない……」「感染したらどうしよう……」といった不確実であいまいなものに対する恐れが不安と呼ばれる。

 不安は、体に悪影響を与えることがわかっている。英国の研究では、落ち込んだり不安になる頻度が高い人はがん死リスクがアップするという報告がある。また、狭心症や心筋梗塞といった冠動脈疾患の死亡率が上昇することも多くの研究で明らかになっている。

 不安によるストレスを受けると、ストレスに対抗するために副腎から「コルチゾール」というホルモンが分泌される。コルチゾールには、血圧を上げたり、心拍数を増やしたり、血糖値を上昇させたり、免疫を抑制するなど多岐にわたる作用があり、長期にわたって過剰に分泌されると、全身のさまざまな疾患につながってしまうのだ。

 とはいえ、不安な感情を強引に抱かないようにすることは難しい。カギを握っているのが「腸」だという。

「脳と腸は『腸脳相関』と呼ばれる深い関係があり、不安と腸も密接に関わっています。東日本大震災や熊本地震の直後、被災地のストレス外来では、頭痛、高血圧、過換気症候群などに加え、とりわけ消化器障害の人が多かったと報告されました。今年のコロナ禍でも便秘を訴える患者さんが増えて、『コロナ便秘』と呼ばれています。不安=ストレスがかかったときの脳のfMRI画像を見ると、記憶をつかさどる海馬が萎縮することがわかりました。微小循環が障害されて脳の血流が悪くなるためで、腸の感覚をつかさどっている前帯状回や島と呼ばれる部位も異常をきたします」

■ビフィズス菌には抗不安効果あり

 また、不安=ストレスを受けると、脳の視床下部からは「CRF」というストレスホルモンが分泌される。

 ストレスに対抗するコルチゾールやアドレナリンの分泌を誘発させるホルモンで、CRFには胃や十二指腸といった上部消化管運動を抑制したり、下部消化管運動を亢進させる作用がある。そのため、腹痛や下痢を招いてしまう。

「さらに『リーキーガット』と呼ばれる腸の透過性亢進状態を引き起こします。われわれの腸の細胞は隣り合っている同士が密着して、細菌や未消化のタンパク質などが腸の中に侵入するのをブロックしています。リーキーガットはその結合が緩んで隙間ができてしまう状態で、小腸内の細菌、毒素、未消化の食べ物などが血液の中に漏れ出てしまいます。すると、下痢、腹痛、吐き気、下血といった症状が表れるのです」

 リーキーガットによって腸内細菌が産生する「エンドトキシン」という毒素が血液に漏れ出すと、脳に到達して脳に軽い慢性炎症(神経炎)が起こる。これが不安や抑うつといった不調や、身体的な疾患につながる。

「脳と血管の間には血液脳関門と呼ばれる“関所”があり、血液内の細菌や毒素が入り込まないような仕組みになっています。しかし、リーキーガットが起こるとその関門も崩れてしまい精神疾患では血液脳関門が破綻しているという論文もあります」

 腸と脳が密接に関係しているとなると、腸の環境を改善すれば不安な感情も軽減できるということだ。

「うつ病の人は下痢、便秘、腹痛などのトラブルを抱えている人が多く、腸内細菌が大きく関わっていると考えられています。中でも、ビフィズス菌には抗不安効果があることがわかっています。ビフィドバクテリウムのプロバイオティクス(人体に良い影響を与える微生物を含む食品)を摂取するとうつ症状が改善し、全身の炎症反応を示すCRPの数値も低くなったと報告されています」

 腸内環境を整えて不安を抑えることが、病気の予防につながる。

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