新型コロナに勝つ「呼吸術」ハーバード大客員教授が教える

科学的に裏打ちされた呼吸法をすることが大事
科学的に裏打ちされた呼吸法をすることが大事

 誰にでもできて、もっとも手軽な新型コロナウイルス対策は「深呼吸」だ。肺を膨らませたり縮小させる筋肉である横隔膜を動かすことで、緊張時の交感神経優位からリラックス時の副交感神経優位に切り替えられるからだ。副交感神経が優位になると締まっていた毛細血管が開き、末梢血管の血流が増える。そこを流れる細胞を元気にする酸素や栄養素、それにウイルスを攻撃するリンパ球が多くなってウイルスへの抵抗力がアップする。ただし、やみくもに深呼吸をすればいいわけではない。科学的に裏打ちされた呼吸法がある。独自の呼吸法を考案、普及に努める「ウイルスから体を守る」(サンマーク出版)の著者で、米ハーバード大学医学部、仏ソルボンヌ大学医学部客員教授の根来秀行医師に聞いた。

「4秒かけて鼻から息を吸い、4秒息を止め、8秒かけて鼻から吐き出します。息を吸うときは横隔膜が大きく動くようにお腹を膨らませて、吐き出すときはお腹をへこませるようにしましょう」

 吸った息をいったん止める理由は、「二酸化炭素を吐き過ぎない」ためだ。

「呼吸に必要なのは酸素で、不要な二酸化炭素はすべて体外に排出すべきだと考えている人も多いでしょう。しかし、そうではありません。肺に吸い込んだ酸素は血液に取り込まれて、全身に運ばれます。このとき、酸素は赤血球のヘモグロビンと結びついた状態です。細胞に酸素を渡すにはヘモグロビンと切り離さなければなりません。それには一定の二酸化炭素濃度が必要です。これをボーア効果と言います」

 息を止める理由はそれだけじゃない。ウイルスを倒すリンパ球は低酸素環境のときの方が活性化することがわかっているからだ。

「この4・4・8の呼吸法は1時間に1回程度行うといいでしょう。それ以外に仕事や勉強などで緊張が続いたときはオススメです。長時間椅子に座り続ける、デスクワーク中心の人はより意識して行う必要があります。なぜなら、背筋が丸くなるような悪い姿勢になると、肺に空気を入れるために働く横隔膜と胸郭の動きが悪くなるからです。しかも、デスクワークで活動量が減ると息を弾ませるような呼吸をしなくなり、呼吸のための筋肉が衰えて深い呼吸ができなくなります。すると横隔膜が動く機会が減りやがて横隔膜と胸郭が動きにくくなるのです。ちなみに、呼吸が浅く胸が膨らむ胸式呼吸では交感神経が、呼吸が深くお腹が膨らむ腹式呼吸では副交感神経が活発になることがわかっています」

 実際、腹式呼吸を数回繰り返すと、手先まで温かくなったり、指先まで血が通う感じがするとの感想を漏らす、根来医師の患者さんは少なくないという。

■アスリートへの指導で大きな成果

 とはいえ、本当にこの根来式「4・4・8呼吸法」でウイルスに対する抵抗力は高まるのだろうか? 現在、根来医師はアスリートへの呼吸指導を行っていて、良い結果を得ているという。

 たとえば、今年の箱根駅伝で優勝した青山学院大学のA選手の場合は、重要レースがめじろ押しの冬にはインフルエンザ、ノロウイルスに感染しやすく、レースはもちろん練習にも支障をきたしていたという。ところが、指導により、インフルエンザはもちろん風邪すらひくことがなくなったという。

「指導を始めてすぐに、選手たちの血液成分や脳波、自律神経のバランス(交感神経と副交感神経の活動割合)や自律神経の総合力を示すトータルパワー、毛細血管や骨の状態などを調べました。その結果、A選手は自律神経のバランスが交感神経優位に傾いていて、トータルパワーが730と同世代の平均900から2割も低い状態で毛細血管もこの世代からすると悪くて、いわゆるゴースト化が進んでいる状態でした。そこで呼吸法を取り入れ、睡眠時間や朝食にも気を配ることでトータルパワーが1200まで上昇、毛細血管に血液がきちんと流れるようになり、感染症になりにくい体に変わったのです」

 ほかにもメジャーリーガーやプロ野球選手、Jリーガー、ラグビー日本代表らに指導、大きな成果を上げているという。

 呼吸法で新型コロナを寄せ付けないといわれても、にわかには信じられないかもしれない。しかし新型コロナに感染しても8割の人が無症状であることを考えれば、人間が持つ免疫の能力をきちんと発揮できれば、ある程度の感染は予防できるということでもある。試してみてはどうだろう。

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